中央テレビ編集 << 先月のコラムへ トップへ >> 次月のコラムへ 美術館からのエッセイ 「いきいきと解き放つ命の輝き」展 徳島県立近代美術館の特別展「いきいきと解き放つ命の輝き」展(2月11日~28日)は、2017年度から毎年開催してきた「アール・ブリュット再考展」を引き継ぐ展覧会です。全国の障がい者福祉施設・アトリエにご協力いただき、そこで生み出された作品を紹介しています。 今回は、優れた活動で知られる関西の施設、アトリエコーナス(大阪市)、片山工房(神戸市)、たんぽぽの家アートセンターHANA(奈良市)の表現者たちの作品をご覧いただきます。出品作品は約110点。ここでは3つの施設のことと、それぞれの施設から作品を1点選び、ご紹介することにしましょう。 ◆アトリエコーナス 大阪市阿部野区にあるアトリエコーナスは、障がいのある子を持つ母親たちが協力し、ノーマライゼーションの理念のもと、1993年に前身となる施設がつくられました。当初は内職仕事の作業所でしたが、「ひとり一人が自己を自由に表現するアート活動をしたい! 地域に開かれた場を作りたい!」という思いから、2005年に古い町屋を改築してアトリエを作り、アートを取り入れた活動をはじめました。 その後、フランスのパリで開かれた「アール・ブリュット展」に出品する人など、国内外で注目される作家が現れ、高く評価されるようになります。いま利用するメンバーは15名。なかにはパフォーマーとして舞台に立つ人もいて、さまざまな分野で活躍しています。 〈楽譜CONTENTS〉を描いた西岡弘治さんは、音楽が好きで、楽譜を描き写して作品をつくります。一心不乱に描き進めるうちに、大らかにゆらいだような、魅力的な形が生み出されます。 西岡弘治〈楽譜 CONTENTS〉2005-07年 ◆片山工房 神戸市長田区にある片山工房は、2003年の設立時から、作品の制作以前に、利用者本人の「好きなこと」「やりたいこと」ができる場を目指し、活動を続けてきた施設です。アートの技術的指導は行わず、カリキュラムもありません。続けやすいリズムを大切にした、安全でリラックスできる環境を整えてきました。 現在の利用者は約40人。1人1台ずつ机がありますが、過ごし方はさまざまで、決まりはありません。ずっと集中して絵を描く人、お茶を飲みながらスタッフとゆっくり話をして帰る人、読書をする人など、まちまちです。スタッフはニーズに寄り添い、その人に合った自助具、画材の使い方を、その人自身が「見出していくこと」をサポートします。 この工房の創作活動の草分けとなったのが澤田隆司さんです。傾斜した台に置いた絵具入りの紙コップを、自由になる右足で蹴って表す「フット技法」によって、鮮やかで活気のある抽象絵画を生み出しました。 澤田隆司〈無題〉2005年 ◆たんぽぽの家 奈良市にあるたんぽぽの家は、1995年に、障がい者のアートをエイブル・アート(可能性の芸術)として捉える運動がはじまった施設として知られています。そこで生まれたアートの活動をさらに進めるため、「アートセンターHANA」が設立され、現在、約60名の障がいのあるメンバーが活動しています。 たんぽぽの家では、絵を描いたり立体をつくったりするだけでなく、「自分を表現できるモノやコト」をアートとして捉えており、一人一人がそれぞれの時間を大切にして過ごします。作品も「自分を表現」するところから生み出されます。 山野将志さんは、身近にあるものを、くっきりした力強い線と豊かな色の色面で表現。大作も描きます。そのカラフルな作品には、見る人の気持ちを明るくしてくれる力があるようです。 山野将志〈マンション〉2011年 ◆様々な参加者 3つの施設では、全国各地、海外の展覧会でも注目される作家が育っていますが、一人一人の人格と個性がまるごと認められる日々の信頼感が、作品を魅力的なものにしているように感じます。 展覧会をご覧いただくと分かるのですが、大胆な表現も、繊細な表現もあり、色彩や描き方、素材なども一様ではありません。その多様さに触れると、障がい者芸術のイメージが変わる人もいるのではないでしょうか。創造力を育む関係や環境について想いをめぐらせ、またそれぞれの施設の表現の特徴も感じながら、お楽しみいただけたらと思います。 ご来館をお待ちしています。 (徳島県立近代美術館 主席 森 芳功) 徳島県立近代美術館2月の催し物 ※予定の変更や中止となる場合があります。最新情報は、当館のホームページでご確認ください。 〔展覧会〕 ◆特別展「いきいきと解き放つ命の輝き-アトリエコーナス、片山工房、たんぽぽの家の表現者たち」展 2021年2月11日(木・祝)-28日(日) ◆所蔵作品展 徳島のコレクション 2020年度第3期 特集「伊原宇三郎って?」 ―2月14日(日) ◆所蔵作品展 徳島のコレクション 2020年度第3期 特集「山下菊二101歳!」 2月16日(火)-4月11日(日) 〔イベント〕 ◆文化の森ウォークラリー 2月11日(木・祝)9:30-16:00 ◆展示解説「いきいきと解き放つ命の輝き」展 2月11日(木・祝)14:00-14:45 手話通訳・要約筆記有り ◆ゲスト・トーク「いきいきと解き放つ命の輝き」展 アトリエコーナス 2月14日(日)14:00-15:00 [講師 Zoom出演]アトリエコーナス:代表理事白岩高子、アートスタッフ 笠松彩菜 手話通訳・要約筆記有り ◆ゲスト・トーク 「いきいきと解き放つ命の輝き」展 たんぽぽの家 2月21日(日)13:30-14:30 [講師 Zoom出演]たんぽぽの家アートセンターHANA:アートディレクター 吉永朋希 手話通訳・要約筆記有り ◆ゲスト・トーク 「いきいきと解き放つ命の輝き」展 片山工房 2月21日(日)14:40-15:40 [講師 Zoom出演]片山工房:アートスタッフ 川本尚美、榎宣雅、久保遥 手話通訳・要約筆記有り ◆展示解説「山下菊二101歳!」 2月23日(火・祝)14:00-14:45 ◆ワークショップ「大人の図工の時間」 2月27日(土)14:00-16:00 要申込み 先着15名