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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

■はじめに
 近代美術館では、所蔵作品展德島のコレクション2019年度第3期の特集として「現代美術と写真」を開催しています。
  現在開催される大規模な現代美術展において、写真作品を見ないことはほとんどありません。しかし、「現代美術」と「写真」が近い関係になってきたのは、この40年ほどのことです。 それでは、作品を紹介していきましょう。

■作品の巨大化
 ドイツの作家、トーマス・ルフのポートレート(Andrea Knobloch)>(1990)は若い女性の巨大な肖像写真です、正面を向いて、上半身だけが写っている写真は、サイズを別にすれば、さながら証明写真のようです。この女性はルフが暮らすドイツの著名な人物ではなく、ルフの知人の一人です。
 それでは、なぜ、ルフは巨大な肖像写真を生み出したのでしょうか。 写真が美術と肩を並べるために、巨大な絵画のようなスケールが必要となったのです。その流れの中、最初は小さな肖像写真を制作していたルフも、巨大な作品の制作へと変化していきます。小さな写真では、観客の関心は知り合いの誰かが写っていることに向いていました。しかし、大きく引き伸ばすことによって、誰かのイメージであるだけではなく、大きな写真であることへの関心も示すようになったのです。
 一方、撮影された肖像に関してはこの作品だけでは、語り得ない部分が多々あります。ルフのこのポートレ-トのシリーズは他に何十点も作品があり、そこで取り上げているのはこの作品と同様、ルフの周辺にいる同世代の男女です。友人、知人たちの、普段、ことさらに意識することのない顔です。これらは、ナチスドイツに対する反動から、無害化された文化の中で育まれた戦後ドイツを象徴しています。
 森村泰昌は歴史上の様々な名画の登場人物に自らが扮した写真作品で注目された作家です。今回、紹介している<肖像(少年1)>(1988)はマネの笛を吹く少年>(1866)に森村自身が扮したものです。ただ、その大きさの比較で言えば、マネの作品が161.0×97.0cmであるのに対し、森村の作品は210.0×120.0cmと大きくなっているのです。森村が、扮した少年を大人のような大きさにすることで、マネの時代のフランスでは、アジア人は完全な大人と見なされていなかったことを反映させているようです。

■アナログからデジタルへ

 この30年くらいの間の、写真をめぐる大きな変化はアナログからデジタルへの移行が挙げられます。また、コンピューターに取り込んだ画像は加工することによって美術の世界でも様々な表現が可能になりました。これから、紹介する澤田知子とやなぎみわの作品もコンピューター上で合成されたものです。
 澤田知子の作品は<TIARA>(2008)。ティアラという髪飾りは、ミスコンテストの優勝者がよくつけているものです。作品自体も、雛壇にはミスコンテストの出場者が並んでいます。ところが、この出場者が全て澤田自身なのです。全て、同一人物が、髪型やメイクの違いによってそれぞれの美しさを生みだすことで、ミスコンテストを無意味なものにしようとしたのです。それ故、<TIARA>というタイトルにもかかわらず、誰もそれを身につけていないのです。
 やなぎみわが取り上げているエレベーター・ガールは女性特有の職業です。やなぎがエレベーター・ガールに注目するきっかけとなったのは、ロボットのような振る舞いを奇妙に感じたことからです。もっとも、今回紹介する<次の階を探してⅠ>(1996)に登場する彼女たちは、持ち場についているのではなく、おのおので寛いでいます。仕事についていない彼女たちの姿は、いるべき場所にいないが故の違和感がありますが、この作品にはそのような要素がいくつか見られます。花に満ちたショーウインドウが延々と続いていること、エレベーターの扉が開いているようなのに、乗降客の姿が見つからないことなどです。やなぎ自身は「手前の明るい世界から、彼方の暗闇にどうしても行かなければならないという強迫観念を感じる原風景を持ち続けている」と話しています。エレベーター・ガールという奇妙な存在は、この原風景に組み込まれることによって、やなぎにとってリアルな存在へとなります。そして、エレベーター・ガールが寛いでいるのは、安らぎと不安、明と暗という相反する要素が同居する世界なのです。

 紹介した以外でも、シンディ・シャーマンやバーバラ・クルーガーなどの作品も展示しています。是非、展覧会場に足をお運び下さい。
                                                    (上席学芸員 吉川 神津夫 )

  
                                 やなぎみわ「TIARA」 


  
                               やなぎみわ「次の階を探してⅠ」                          

徳島県立近代美術館 3月の催し物

[展覧会]
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2019年度第3期 特集「現代美術と写真」  
開催中―2020年4月12日(日)

〔その他のイベント〕

◆フリースペース チャレンジとくしま芸術祭 2020 受賞者発表会

[展示部門]・・・・・・・・・2020314日[土]、15日[日]

930分~17時(24日は1630分まで)

徳島県立近代美術館 展示室32F

[パフォーマンス部門]・・・2020315日[日] 

新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となりました。