徳島県立近代美術館では、ここ数年、2月には「アール・ブリュット再考」という展覧会を開いています。2018年には日本財団から作品を借用して「生の刻印 アール・ブリュット再考展」、昨年は京都府亀岡市にある「みずのき美術館」の所蔵作品を紹介する「アール・ブリュット再考2展 みずのきの色層」を開催しました。そして今年は滋賀県甲賀市にある「やまなみ工房」で生み出された作品を紹介する「アール・ブリュット再考3 So
Happy – やまなみ工房作品展」を開催します。
アール・ブリュットという言葉は、日本では障がい者の作品に対して用いられることが多いようです。しかし、この言葉を生み出したフランスの画家ジャン・デュビュッフェ(1901-1985)は障がい者の作品を指してそう言ったわけではありません。アール・ブリュットが日本語で「生(き)の芸術」といわれるように、美術教育や文化とは関係なく、障がいの有無にかかわらず幅広く、抑えきれない衝動で表現に向かったことから生み出された作品のことを言っています。
当館での一連の展覧会が「アール・ブリュット」展ではなく、「アール・ブリュット再考」展となっているのは、展覧会の出品内容が障がい者の芸術文化活動の紹介を中心としながらも、改めて「アール・ブリュット」について考える機会としたいということからです。
アール・ブリュットを考えるための今回のキーワードは、「それぞれ」です。やまなみ工房に通う人たちには、それぞれに「これをすることで私は幸せである」ということがあるといいます。そして、鉛筆やマーカー、墨汁などによる描画、粘土や紙を使った造形、刺繍を始めとする糸や布を素材とした作品など、それぞれの人が自分の好きな素材や得意な技法で表現活動を行っています。
今回は、「それぞれ」に注目し、その多様性について改めて考えてみたいと思います。やまなみ工房は、作品に表れるその人の本質を大切にし、感性や豊かさについて考え、それぞれの可能性、そしてHappyが無限に広がることを目指すとしています。それぞれの人が自分らしく過ごす日々の中から生み出した多様な色やカタチをご覧ください。
それらは、キャンバスや紙への描画、ひたすら書かれた文字、資源回収活動で手に入った古雑誌やパンフレットにいたずら書きをしたようなもの、石に描いたもの、陶芸、巨大な紙工作、刺しゅう、シャツに糸を縫い付けていったもの、布にボタンを無数に取り付けた球状の物体など、さまざまに表されています。
では、そのような表現の全てを作品と呼ぶことができるのでしょうか。その点について、アーティストの日比野克彦氏は、「作者としての表現者は第三者である自分以外の人に自分の想像力から生まれた表現を伝えてこそ作品というものになっていくと私は考える。(中略)その表現を享受する第三者が存在するのであれば、その表現は作品として成立するという見方を進めてみてはどうだろうか」*と述べています。
この言葉の出典は、平成20年に出された「障害者アート推進のための懇談会」の報告書です。その中で、国立民族学博物館准教授の広瀬浩二郎氏が「作者がだれであろうと、アートはアートとして評価されるべきである。しかし、芸術活動(制作、発表)の機会を社会的理由により不当に制限されてきた人は多数いて、その代表が障害者なのだともいえる」*とも述べています。
今回のテーマを「それぞれ」としたのは、展覧会が「制作する人それぞれ」の表現の発表の機会であり、「見る人それぞれ」がその表現を作品として評価するかどうかを考える場でありたいと思ったからです。
もちろん美術館の展覧会ですから、学芸員が責任を持って評価、判断して優れた作品を見せるべきなのでしょう。しかし、アール・ブリュットの作品に期待されるのは既存の価値観を揺さぶることにあります。私がやまなみ工房に作品調査に行って、その作品群を前にして強く感じたのは「混沌の迫力」でした。今回は、その混沌のもとをそのまま、既存の価値観で整理することをせずに、それぞれの表現をなるべく数多く紹介することで、改めてアール・ブリュットについて考える機会となればと思っています。
(学芸交流課長 安達 一樹)

やまなみ工房看板 菜穂子地蔵
(注)*『ぬくもりのある日本、みんなが隠れた才能をもっている~障がいのある人たちが創造するアート~』障害者アート推進のための懇談会 p.23 平成20年6月
徳島県立近代美術館 2月の催し物
[展覧会]
○アール・ブリュット再考3 So Happy – やまなみ工房作品展
2月15日(土)~3月1日(日)
○所蔵作品展 徳島のコレクション2019年度第3期 特集 現代美術と写真
2月4日(火)~4月12日(日)
○コラボ企画 子どもたちと美術館をつなぐ「アートの日」活動発表展
2月29日(土)~3月1日(日)
場所:ギャラリー(1階)
[アール・ブリュット再考3 So Happy – やまなみ工房作品展の関連イベント]
○講演会「すべては幸せを感じるために~やまなみ物語~」
日時:2月23日(日・祝) 14時~15時30分
講師:山下完和(やまなみ工房施設長)
場所:県立二十一世紀館イベントホール(1階)
参加費用:無料
申込方法:申込不要
○公開制作
日時:2月22日(土)、23日(日・祝)
いずれも 11時~12時、14時~16時
場所:美術館ロビー(2階)
参加費用:無料
申込方法:申込不要
※作家の体調等により実施できない場合があります。
○学芸員による展示解説
日時:2月16日(日) 14時~14時45分
場所:展示室3(2階)
参加費用:無料
申込方法:申込不要
[所蔵作品展の関連イベント]
○展示解説「徳島のコレクション」
日時:2月2日(日) 14時~14時45分
場所:展示室1(2階)
参加費用:観覧券が必要
申込方法:申込不要
○展示解説「現代美術と写真」
日時: 2月23日(日・祝) 13時~13時45分
場所:展示室1(2階)
参加費用:無料
申込方法:申込不要
○こども鑑賞クラブ「アートの名探偵」
日時: 2月29日(土) 14時~14時45分
場所:展示室(2階)
講師:近代美術館スタッフ
参加対象:小学生(保護者同伴可)
参加費用:無料(保護者は要観覧券)
申込方法:当日14時までに2階美術館ロビーで受付をしてください
[イベント]
○文化の森 ウインターフェスティバル
日時: 2月11日(火・祝) 9時30分~16時
・ワークスペース(ロビー):「ぬりえで遊ぼう」 9時30分~16時
・ミニ解説(各20分 展示室)
「20世紀の人間像」 10時30分~
「特集 現代美術と写真」 12時30分~
「現代版画 比べて見る」 13時30分~
「徳島ゆかりの美術」 14時30分~
・ウェルカムツアー(展示室)
「楽しい鑑賞」 11時30分~12時
○ナイト・アート・ミュージアム研修会:美術館で図工の授業
日時: 2月14日(金) 18時~20時
場所:アトリエ(3階)、展示室(2階)
講師:美術の教員、学芸員
参加対象:小学校の先生
参加費用:無料
定員:15名
申込方法:電話かFAXで申込(先着順)
○大人の美術の時間:水性絵の具
日時: 2月29日(日) 10時~12時
場所:アトリエ(3階)
講師:美術の教員
参加対象:18歳以上
参加費用:無料
定員:15名
申込方法:電話かFAXで申込(先着順)
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