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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
アメリカ美術が眩しかったころ

 昨年の所蔵作品展での特集コーナー「特別公開 滋賀県立近代美術館所蔵作品〈イスファハーン〉」を覚えていらっしゃるでしょうか。そこでは、フランク・ステラの作品〈イスファハーン〉を展示しました。来館者アンケートで「カラフルなカーブの物」と称された作品です。この作品は、当館の所蔵作品ではなく、コーナー名にもあったように滋賀県立近代美術館の所蔵作品です。質の高いアメリカ現代美術コレクションを有している滋賀県立近代美術館が、現在、改修・増築工事のため長期休館中で、その間、この〈イスファハーン〉を当館が預かったことから、実現したものでした。
 今回の特別展「ニューヨーク・アートシーン ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで 滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」は、その関係から当館での開催の運びとなったものです。滋賀県立近代美術館が開館していれば館外にまとまって出ることはないその優れたアメリカ現代美術の作品群を、休館中ということでまとめて借りることが可能になりました。そして、鳥取県立博物館、和歌山県立近代美術館、埼玉県立近代美術館と当館の4館で滋賀県立近代美術館コレクションを中心としたアメリカ現代美術を紹介する展覧会「ニューヨーク・アートシーン」を開催することとなりました。
 展覧会では、滋賀県立近代美術館が所蔵する日本屈指のアメリカ現代美術コレクションを中心に、第二次世界大戦後に光芒を放ったアメリカ美術を、時代や傾向の移り変わりに沿いながら、6つの章に分けて紹介しています。

第1章 新しいアメリカ美術
  -抽象表現主義


 第二次世界大戦前の世界の美術の中心はフランスのパリでした。しかし、第二次世界大戦を契機に、ヨーロッパの美術界を先導していたシュルレアリストを始めとする多くの美術家がアメリカに渡りました。そして、彼らがニューヨークの若い作家たちと交流し、刺激を与えたことで、新しいアメリカ型の美術が生まれました。その最初が、抽象表現主義の絵画です。画面に中心がなく、色彩が色彩としてあることが特徴です。アーシル・ゴーキーの〈無題(バージニア風景〉では自由な線と色による有機的な形が浮遊し、流動的な画面となっています。


第2章 デュシャンとその末裔
  -ネオ・ダダとフルクサス


 抽象表現主義の次に現れた動向は、ネオ・ダダです。ネオ・ダダの作家は、ジャスパー・ジョーンズとロバート・ラウシェンバーグのふたりです。
 このふたりは、抽象表現主義の姿勢に反するように、具体的なイメージを復活させ、日常、身の回りにあるイメージを作品に持ち込みました。
 それらの作品には、持ち込まれた具体的なイメージが実体ではなく、イメージというものになっているという性質が認められます。そのようなことから、ネオ・ダダは、次に現れて大きく花開くポップ・アートへの橋渡し的な役割を果たしたといえます。

第3章 パクス・アメリカーナの夢
  -ポップ・アートとスーパー・リアリズム


 1960年代になると、世の中は大量生産大量消費社会となり、社会の情報化、大衆文化が興隆します。その世相のなかで、そこかしこにあふれるイメージを、そのまま作品にしたのがアメリカのポップ・アートです。そこで用いられた有名人や商品、漫画などのイメージは、あくまでイメージでした。それらのイメージは、そのものではないことから、虚像と言い換えることもできます。
  ポップ・アートは、同時代の産物である虚像を作品として大量生産することで、美術を大衆化しました。その虚像の大量生産と消費メカニズムから、ポップ・アートは、この時代にこれ以上に同時代性の強い表現はないといえるくらいアメリカで花開いた美術といえるでしょう。

第4章 最後の絵画
  -ポスト・ペインタリーアブストラクション


 ポップ・アートが花盛りとなる一方で、抽象表現主義のカラー・フィールド・ペインティングを継ぐような作品が現れます。それがモーリス・ルイスやフランク・ステラの作品です。
 カラー・フィールド・ペインティングは文字通り、色の面に特徴があります。美術批評家のクレメント・グリーンバーグは、絵画から物語性や再現性といった美術の他の分野と共有することのできる要素を除けていくと、絵画固有のものとして残るのは平面性だといいます。先に挙げた作家の作品は、色面の作り方で、絵画の平面性という点においてひとつの極限を示しています。

第5章 限界における美術
  -ミニマル・アートとコンセプチュアル・アート


 ひとつの極限まで来たと思われた絵画ですが、まだ先がありました。ミニマル・アートです。これは作品が作品として成立する最小限の条件を探るものです。この展示では、絵画だけでなく彫刻での試みも紹介します。さらに、美術が成立する条件を突き詰めていった結果、観念や思考そのものを作品とみなすコンセプチュアル・アートが現れました。

第6章 ポスト・モダン以後の表現
  -ニュー・ペインティングとアプロプリエーション・アート


 1980年代に入ると、絵画は具象絵画への回帰ともいえる、強い主題性や表現性を持った作品が現れます。ニュー・ペインティングと呼ばれるそれらの作品は、アメリカのみならず世界中で同時多発的に起こりました。
 また、複製技術と情報機器の発達によりイメージとその複製が氾濫し、オリジナルとコピーの境界が曖昧になったことで、周知のイメージを利用、変換するシュミレーション・アートや、盗用を意味するアプロプリエーション・アートなども生まれました。ここでこの展覧会は終わります。

 この展覧会は、今日でも輝きを失わないアメリカ現代美術の名品を徳島で見ることのできる貴重な機会です。その数々を、どうぞお楽しみ下さい。
                                                      (学芸交流課長 安達一樹)

       
アーシル・ゴーキー〈無題(バージニア風景〉、1943-44年頃
滋賀県立近代美術館蔵



モーリス・ルイス〈ダレット・ペー〉1959年
滋賀県立近代美術館蔵


徳島県立近代美術館 10月の催し物
[展覧会]
・特別展 ニューヨーク・アートシーン -ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで 滋賀県立近代美術館コレクションを中心に
 開催中~11月4日(月、振替休日)まで

・所蔵作品展 徳島のコレクション2019年度第2期 特集 明治の徳島画人-原鵬雲、守住勇魚、團藍舟など」  
 開催中~10月27日(日)まで

[特別展 ニューヨーク・アートシーンの関連イベント]
・学芸員による展示解説
 日時:10月6日(日) 午後2時~2時45分
 場所:展覧会場

・記念講演「アメリカ美術に見る過激と過剰について デュシャンvsウォーホル、ポロックvsステラ」
 日時:10月14日(月・祝) 午後2時~3時30分
 講師:黒岩恭介(九州産業大学造形短期大学部名誉教授)
 場所:近代美術館講座室(3階)

・子ども鑑賞クラブ「ニューヨーク!」
 日時:10月26日(土) 午後2時~3時30分
 場所:展覧会場
 対象:小学生

[所蔵作品展の関連イベント]
・展示解説「明治の徳島画人」
 日時: 10月22日(火・祝) 午後2時~2時45分