この夏の近代美術館の特別展は、美人画です。女性美を表現した絵画は古今東西、様々なものがあります。今回展示している「美人画」は、それらの中でも、日本の大正時代や、昭和の初期に盛んに描かれた日本画の作品です。
それらの作品に登場する女性たちは、そのほとんどが着物姿です。でも描かれている時代は、近世の江戸時代から昭和まで幅があります。
会場は大きく4コーナーに分かれています。最初は「四季-春夏秋冬」です。春は散る花を愛で、夏は浴衣で涼をとり、秋には野に遊び、冬の雪景色にたたずむ女性たち。美人画の名手として並び称された西の上村松園(うえむら しょうえん)、東の鏑木清方(かぶらき きよかた)らの作品を展示しています。四季折々にうつりかわる風情のなかで日本女性の美しさをご堪能下さい。
二番目は「芸事・踊り」です。ここでは芸事や舞妓、芸妓を描いた作品を集めました。たとえば山川秀峰(やまかわ しゅうほう)の〈素踊〉は日本舞踊の花柳寿美(はなやぎ
すみ)を、小早川清(こばやかわ きよし)の〈名技市丸〉は浅草の人気芸者だった市丸をモデルとしています。たここでは、昭和初期に徳島を取材し、「阿波よしこの」の名手で知られた「お鯉さん」をモデルに描いたとされる、北野恒富(きたの
つねとみ)の〈阿波踊〉も展示しています。優雅さや気品の中に秘められた情熱や色気を感じます。
続いては「個性的な表現へ-人間を見つめる」です。美人画が最盛期となった大正から昭和初期は、画家の個性的な表現への取り組みが拡がった時期でもありました。それは大正デカダンス(退廃的、耽美的)とも言われます。甲斐庄楠音(かいのしょう
ただおと)、岡本神草(おかもと しんそう)、谷角日沙春(たにかど ひさはる)らの作品は、ここまで見てきた美人画とは異なった印象を与えるかも知れません。美の基準の多様性を感じながら、女性を人間としてリアルにとらえた表現をお楽しみください。
最後は「物語・歴史など」です。物語や歴史などを画題とする絵画にも美人画と言える作品が多数見られます。最後のコーナーでは『平家物語』、『太平記』、『好色五人女』などの物語や、和歌、俳句、あるいは浄瑠璃、謡曲など、日本の文学や芸能に想を得た絵画をご紹介します。
ここで見られる女性の姿や風俗は、今では遠い昔のようです。とくに若い方には懐かしさを通り過ぎてほとんど未知の世界かも知れません。本展ではそんな日本の風俗や情緒と出会うことができます。そして、もし着物に興味を引かれた方は、思い切って和装で来場くださると、割引料金で入場いただけます。知っているようで知らない日本の文化、「着物」を再発見する絶好の機会にもなるでしょう。
大正期前後の「美人画」の流行は、明治以降の世の中の近代化の中で、日本の伝統と新しい西洋の価値観がせめぎ合い、日本のアイデンティティが大きく揺らぎながら、日本とは何か、ということが切実に問われた時代を背景としています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて国際化が進む中、この展覧会が、日本の美や伝統について改めて思い巡らす機会となれば幸いです。
(上席学芸員 友井伸一)

上村松園 〈桜狩の図〉 木谷千種 〈涼宵〉 菊池契月 〈虫撰〉

竹久夢二 〈投扇興〉

山川秀峰 〈素踊〉 北野恒富 〈阿波踊〉 岡本神草 〈傘の舞妓〉
・上村松園 〈桜狩の図〉1935(昭和10)年頃 絹本着色 培広庵コレクション
・木谷千種 〈涼宵〉 昭和10年代 絹本着色 培広庵コレクション
・菊池契月 〈虫撰〉 1930(昭和5)年頃 絹本着色 徳島県立近代美術館蔵
・竹久夢二 〈投扇興〉 1917(大正6)年頃 紙本着色 培広庵コレクション
・山川秀峰 〈素踊〉 1931(昭和6)年 絹本着色 培広庵コレクション
・北野恒富 〈阿波踊〉 1930(昭和5)年頃 絹本着色 徳島市立徳島城博物館蔵(山内俊祐氏寄贈資料)
・岡本神草 〈傘の舞妓〉 1922(大正11)年 絹本着色 培広庵コレクション
徳島県立近代美術館 2019年8月の催し物
[展覧会]
○文化の森総合公園開園プレ30周年 徳島新聞創刊75周年記念
「美人画の雪月花-四季とくらし 培広庵コレクションを中心に」展
2019年7月20日[土]-9月1日[日] 徳島県立近代美術館 *観覧料が必要です。
○「所蔵作品展 徳島のコレクション 2019年度第2期(前半)」
[開催中]~9月8日(日) 近代美術館 展示室1、2
特集 特集 河井清一と明治期・徳島の若者文化/20世紀の人間像/現代版画 松谷武判と菅井汲:開催中~8月4日(日)、松谷武判と元永定正:8月6日(火)-9月8日(日)/
徳島ゆかりの美術 *観覧料が必要です。
[イベント]
○スペシャルトーク「美人画にみる きもの」
8月4日(日)14:00~15:00 近代美術館 展示室3
【講師】内山琴子([公社]全日本きものコンサルタント協会正会員、装道礼法きもの学院認可 内山礼法きもの学院主宰)/【参加対象】どなたでも/手話通訳あり/申込不要 *観覧料が必要です。
○学芸員の見どころ解説「美人画の雪月花 四季とくらし 培広庵コレクションを中心に 8月12日(月・振)、25日(日)各 14:00~15:00
近代美術館 展示室3 *観覧料が必要です。
○「こども鑑賞クラブ 美人画」 8月3日(土) 14:00~14:45
近代美術館 展示室3 【講師】近代美術館スタッフ/【参加対象】小学生(保護者同伴可)/申込不要 当日14時までに近代美術館 ロビーに集合。*参加費無料(保護者は要観覧料)
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