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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
近代美術館の新収蔵作品について

 「真っ赤な嘘」という言い回しがよく使われますが、それは「嘘」が赤い色をしているということではありません。「赤い」には、「明らか」という意味が含まれています。ですから「真っ赤な嘘」というのは「明らかな嘘」ということにほかなりません。  
 この作品では、画面のほとんどの部分を赤い色が占めています。作品のタイトルは<真実の肌ざわり>ですので、明らかな真実に触れたときの、人のすがたや感情が表されていると考えてよいでしょう。  
 この明白な真実に支配された画面は、すべてが明るみに出て、真実が白日の下にさらされた場面であるに違いありません。そのゆるぎなさに直面した時、人のふるまいやその中に湧き上がる感情はどのようなものなのかを描き留めた作品でもあるでしょう。  
 画面の中で、明らかな真実に対面した女性は複雑な横顔を見せています。科学実験で打ち立てた仮説が証明され、真実が明らかになった瞬間の喜びや満足感とは異なり、やりきれなさや苦しみや小さな失意、戸惑いや諦観を読み取る人もいるかもしれません。真実が明らかになることは、単純に、よいこと、望ましいことだとは言えないような気配にこの作品は覆われています。明らかな真実というのは、ときに人を不安定な気分にさせることもあるのでしょう。  
 具体的なかたちが見えない主題を、人を描くことで表しつつ、観る人に伝わる何かがあればと、作者である金田実生は期待を寄せます。虚実の狭間で複雑に揺れる心情や、真実に目を向けようとするときに味わう困難など、身体の奥深くに湧き上がる思いを描き、観る人の内なる感情に向き合わせる作品です。ここでは、私たちが何を感じるのか、画面の人物の感情に寄り添えるかどうかについても、問われているのかもしれません。金田は、同時代を生きるペインターとして、人が生きている周りに生じるさまざまな事象や気配を表してきました。画面の中で起こっていることは、私たちから遠いところにあるものではなく、私たちにも充分に想像し、共感することができるものでしょう。新しくコレクションに加わった作品の前で、しばし佇み、その気配や気分を味わっていただきたいと思います。  
 徳島県立近代美術館では、このほかにも昨年度の収集事業で新しくコレクションに加わった作品を、「徳島のコレクション2018年度第Ⅰ期」で展示しています。  
 倉地比沙支(1961- )の<seem12-a>は、版画技法の多様さを知る上でも興味深い作品ですが、「人間表現」として考えてみると、表されたイメージの不思議さに惹かれます。 徳島ゆかりの美術のコーナーでも、新収蔵の作品をご紹介しています。
                                                      (上席学芸員 吉原美惠子)

 
金田実生<真実の肌ざわり>
2004年 油彩 キャンバス 53.5×53.5cm 徳島県立近代美術館蔵


 
倉地比沙支<seem12-a>
2012年 コットン紙に出力、UVメディウム、手彩 90.0×125.9×3.5cm 徳島県立近代美術館蔵


[徳島県立近代美術館展覧会案内]
◆所蔵作品展「徳島のコレクション2018年度第3期」  
 特集 シルエット  
 開催中-4月14日(日) 展示室1,2,屋外展示場他
◆所蔵作品展「徳島のコレクション2019年度第1期」  
 特集 新収蔵作品を中心に  
 4月20日(土)-7月7日(日) 展示室1,2,屋外展示場他
◆受贈記念 郭徳俊の版画  
 4月27日(土)-6月16日(日) 展示室3  
 *4月29日(月・祝)14時から14時45分には、学芸員による展示解説があります。  
 *5月12日(日)14時から15時には作家によるトーク「郭徳俊にきく」があります。(観覧券が必要です。)