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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
フリースペース チャレンジとくしま芸術祭 2019

 平成22(2010)年から年1回、文化の森の県立近代美術館で、冬のこの時期に開催されている「フリースペース チャレンジとくしま芸術祭」。早いもので、今回で10回目となりました。
 徳島発のアーティストを発見・支援する芸術祭で、徳島県出身または在住ならだれでも参加OK。年齢、経験は不問で公募し、定員を超える応募があったときは抽選になります。絵画、彫刻、工芸などの「展示部門」と、音楽、ダンス、芸能などの「パフォーマンス部門」の二部門があり、審査によりグランプリほか各賞が決定。3月には受賞者の発表会も開催してきました。

■ 10回を記念して
 昨年の8月1日、「10回記念 野外公演 パフォーマンス・セレクション 2018 ~真夏の夜の競演~」が、5月にリニューアルした文化の森の「すだちくん森のシアター」で開かれました。「チャレンジとくしま芸術祭」のパフォーマンス部門でのこれまでの受賞者の中から次の5組のみなさんによる公演です。
○「カタタチサト」(ダンスパフォーマンス):第3回(2012年)グランプリ
○「徳島市立高等学校ダンス部」(HipHop & Jazz):第7回(2016年)グランプリ、第6回(2015年)・第8回(2017年)・第9回(2018年)チャレンジ奨励賞
○「ときめきダンスカンパニー四国」(「創作ダンス」&「太鼓」):第9回(2018年)グランプリ
○「徳島はっちー」(アートマイム、ジャグリング):第6回(2015年)準グランプリ、第5回(2014年)チャレンジ奨励賞
○「たけと愉快な仲間たち」(ビッグバンドジャズ):第6回(2015年)グランプリ、第7回(2016年)準グランプリ

 日没から次第に夜に向かう時間の移り変わりや、自然の風、虫の音などを体感できる野外の円形劇場を活かして、ダンスやパントマイム、ジャズ演奏などが披露されました。なかにはプロとして活躍されている方もおり、10年の歩みを感じさせます。熱気あふれるレベルの高い公演となりました。
 
(*当初は6組の出演予定でしたが、都合により5組となりました)

 

10回記念 野外公演 パフォーマンス・セレクション 2018」フィナーレの様子


■ 今回の参加者が決定
 そして11月4日は、「チャレンジとくしま芸術祭2019」の公開抽選会と参加者説明会の日です。定員を上回る応募者があったため、抽選で参加が決まる運命の日です。緊張感が漂うなか、展示部門42組、パフォーマンス部門18組の参加者が決定。展示する場所や上演順についてもあわせて抽選しました。展示部門には、絵画や彫刻、写真、工芸、絵本、陶芸、インスタレーションなど、パフォーマンス部門にはダンスや音楽、朗読、武道、芝居、ジャグリングやサーカス漫才など、今回も幅広い内容です。また、そのうち半数程度が初参加です。新鮮な作品や表現に期待が膨らみます。

 

「チャレンジとくしま芸術祭2019」ホームページ

https://art.tokushima-ec.ed.jp//challenge/2019/


■ 前回のアンケートより
 このように参加のための制限が少なく、多彩な内容の芸術祭は、全国でもあまり例がありません、それだけに、アンケートへのご意見も賛否両論です。

「だれでも参加できることをうたって誰でも楽しめることが本当に必要なのだろうか」
「これが美術館として展示する作品なのか、という観点は主催者としてはないのか」
「パフォーマンスはロビーで必要なのか」

「何の会派にも属さない者にも開かれた場を提供してくれてありがたい」
「美術館にあるものだけが作品なのではないと、改めて思いました」
「ロビーでパフォーマンスをやるのはいいと思う。ここだからこそ面白い。」

  このように、様々な視点からのご意見が毎回アンケートに寄せられます。疑問や問いかけの一方で、それに対する応答となるようなご意見もあります。来場者が、「美術」や「表現」を巡って多様な思いを抱き、「そもそも表現するとはどういうことだろう?」と、思いをめぐらせる機会にもなっていることを感じます。これもこの芸術祭を開催する意義の一つであると思います。

 

      前回(2018)の展示部門            前回(2018)のパフォーマンス部門


■ 少数派のためにこそ
 この芸術祭は、他の公募展やコンテストのように、参加を重ねるとステップアップし、やがて卒業していくという性質のものではありません。むしろ何度参加していても、受賞経験があっても、抽選に外れたら参加すらできません。実績のある方でも、プロであっても優遇されることはなく、応募する時は誰もが一人のチャレンジャーです。そのため、なぜこの芸術祭に参加するのかという目的や意義は、参加者自身が設定する必要があります。
 そんななか、この芸術祭をきっかけに活動を再開したプロや実績のある経験者がいます。受賞や実績の有無を問わず、この場を励みに継続的に取り組んでいる方も近年増えてきました。また、仕事、病気、ご不幸などの事情でブランクがあっても、それを乗り越えて、再びチャレンジされる方もいらっしゃいます。これまでの活動の殻を破ろうとするリピーターも多く見受けられます。そして、初めてのチャレンジャーも毎回のように現れます。
  徳島は表現を追求していく場所として、決して恵まれた環境とはいえません。ここで表現を志し、継続していこうとする人の数も決して多くはありません。でも、このような目立たない少数派のためにこそ、「チャレンジとくしま芸術祭」はあるのではないか、と10回を重ねて感じています。
 その10回を記念し、今回の「チャレンジとくしま芸術祭 2019」は、3月の受賞者発表会の後、4月~5月にかけて県内を巡回します。4月下旬に「阿波市交流防災拠点施設アエルワ」で、5月中旬には「阿南市文化会館夢ホール」で、両部門のセレクトメンバーによる展示とパフォーマンスが発表されます。これは初めての試みです。主催者もチャレンジを続けていきたいと思っています。
 (上席学芸員 友井伸一 )

徳島県立近代美術館 2019年2月の催し案内

[展覧会など]
○「フリースペース チャレンジとくしま芸術祭 2019」
・展示部門:2月5日(火)~17日(日)※12日(火)は休館日 近代美術館 展示室3
・パフォーマンス部門:2月9日(土) 近代美術館 ロビー
・受賞者発表会:3月23日(土)、24日(日)*パフォーマンス部門は24日(日)のみ 近代美術館ギャラリー/二十一世紀館イベントホール *いずれも入場無料

○「所蔵作品展 徳島のコレクション 2018年度第3期」 
[開催中]~4月14日(日) 近代美術館 展示室1、2
特集 シルエット/20世紀の人間像/現代版画  身近なものを2:1月16日(水)-2月11日(月・祝)、 身近なものを3:2月13日(水)-3月17日(日)/ 徳島ゆかりの美術 *観覧料が必要です。

○「アール・ブリュット再考2展 みずのきの色層」 
2月23日(土)~3月10日(日) 近代美術館 展示室3 *入場無料。

[イベント]
○「こども鑑賞クラブ 色々なチャレンジ」
2月10日(日)  14:00~14:45
近代美術館 展示室3 *「チャレンジとくしま芸術祭」展示部門会場
【講師】近代美術館スタッフ/【参加対象】小学生(保護者同伴可)/申込不要 当日14時までに近代美術館 ロビーに集合。*参加費無料

○「文化の森 ウィンターフェスティバル」
2月11日(月・祝)
文化の森で様々な催しが開催されます。
近代美術館の催しは次の通りです。
・ウェルカムツアー「たのしい鑑賞」 11:30~12:00 近代美術館 展示室1、2
・「美術作品ミニ解説」 14:00~14:20 近代美術館 展示室1、2
・「ぬりえでリラックス」 9:30~16:00 近代美術館 ロビー *いずれも入場無料

○「就学前の子どもたちにアートの楽しさを届けるシンポジウム」
2月16日(土)  13:30~16:30
二十一世紀館多目的活動室 
【講師】基調講演:松岡宏明[大阪総合保育大学教授]/「アートの日」実践報告:宇田泰(徳島市立城西保育所)、岸上佐和子(「アートの日」を経験した保護者)、富林純子(当館アートイベントサポーター)、森芳功(当館学芸交流課長)/【参加対象】就学前施設職員、保護者、教員等/申込不要/定員:150名 *入場無料

○展示解説「アール・ブリュット再考2展」
2月24日(日)  14:00~14:45 近代美術館 展示室3 
【講師】吉川神津夫(当館学芸員/【参加対象】どなたでも/申込不要 手話通訳あり *観覧料が必要です。