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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

■ 大正生まれの作家たち
 今回、「徳島のコレクション20018年度第3期」の「20世紀の人間像」のコーナーでは、大正時代に生まれた作家たちの作品を紹介します。
 平成も今年の4月で終わりを迎え、5月からは新しい元号が始まります。今、書類などの生年月日を記す欄には、T(大正)・S(昭和)・H(平成)とあります。現在でも90歳を超えて健在の方々がおられるとはいえ、来年以降にはいずれ、Tも無くなり、この時代も遠い過去となっていくことでしょう。  
 この世代の人々は戦争を生き抜き、戦後復興を担ってきました。作家たちも戦後、様々な意欲的な試みを行いました。このコーナーでは、山下菊二、小山田二郎、麻生三郎、浜田知明、植木茂らの作品をご覧いただきます。
 今回は、その中から徳島県出身の作家、山下菊二の油彩画<4人のパイロット>(1962)を紹介したいと思います。

■ 山下菊二<4人のパイロット>
 この作品は二つのパートに分かれています。上の3分の1位を占める板の木目を生かした部分。穴の開いている中が赤いのは太陽に見立てているのでしょうか。  
 そして、画面の下3分の2には、白い靄の中から鳥の顔のようなイメージが覗いています。何とか人の顔のように見えるのは左側の真ん中くらいです。それでは、一体、この絵の中で4人のパイロットはどこにいるのでしょうか。  
 作品の真ん中やや左側に人の横顔らしきものが認められますが、その他に見られるのは鳥の顔です。このことは、空を飛ぶ鳥をパイロットに見立てているという解釈もできます。当時、山下夫妻の家では鳥が飛び交っていたと言いますから、その影響もあるかもしれません。しかし、この作品には飛行機の翼はもちろん、鳥の羽も見当たりません。
 視点を変えてみましょう。  
 この作品の切れ目、上が空で下が雲と考えれば、雲の中を飛んでいるイメージと考えることもできます。羽は雲の中に隠れているのだと。
  しかし、切れ目を水平線、もしくは地平線と考えればどうでしょうか。4人のパイロットは墜落して、それ故この世のものとは思えない姿になってしまったのではないかと。このように考えますと、画面の上下で現世と常世に分かれているようにも思えます。  
 山下菊二自身、この作品について特に言葉に残していませんので、色々な解釈の余地がある作品なのです。

■ その他の展示コーナー
 今期の他の展示についても触れておきましょう。  
 特集のコーナーでは「シルエット」をテーマに、高松次郎<影の自画像>(1964)とアントニー・ゴームリー<天使の器Ⅱ>(1989)を紹介します。  
 版画コーナーは会期を通じて「身近なものを」をテーマにしています。1月14日までは「服」、1月16日からは「食」が登場する作品です。  
 徳島ゆかりの美術のコーナーでは、大正時代に描かれた風景画や伊原宇三郎の描いた様々な人間像などをご覧いただきます。
                  (徳島県立近代美術館 上席学芸員 吉川神津夫 )

  
              山下菊二<4人のパイロット> 1962年 油彩 木版 


     アントニー・ゴームリー <天使の器Ⅱ> 1989年 石膏、ファイバーグラス、鉛、鋼鉄、空気 

徳島県立近代美術館 1月の催し物

[展覧会]

◆所蔵作品展「ユニバーサル美術館展」 ―2019123日(水)

◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2018年度第3期 特集「シルエット」  

 ―2019414日(日)

〔所蔵作品展 関連イベント〕

◆展示解説 「展示解説 特集 シルエット」120[] 14時から1445分まで

〔ユニバーサル美術館展 関連イベント〕
◆あの手この手で交流トーク(本番) 1月13日(日)14時-15時
◆マイクで交流ツアー(聞こえにくい方のための催し) 1月19日(土)14時-15時

〔その他のイベント〕
◆コラボ企画 数学×美術でひろがる作品鑑賞-作品に潜む数学を探そう! 1月14日(月・祝) 1回目13時-14時 2回目14時30分-15時30分