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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ

■ ユニバーサルな美術館を目指す
 障がいのある方もない方も美術鑑賞に親しめる場を目標として、ユニバーサル美術館展を開催します。2011年度からユニバーサル・ミュージアム事業に取り組んできました。その実績を元に、交流しながら鑑賞を深めてもらえる展示空間を目指して企画します。「ユニバーサル」というと、皆に通用する万能のデザイン、といったことを連想されるかも知れません。実際、当館でも屋外展示場のスロープを改良したり、休憩用のソファを整備したりといった形で、「使いやすさ」の向上に努めています。  
 そうしたハード的な事柄に加えて、当館が力を入れてきたのは、様々な立場の人、例えば展示解説の声が聞こえない人への情報保障に配慮しつつ、聞こえる人と気兼ねなく感想を分かち合えるような場づくりこそを大切に考える、といったことです。また、近年、視覚だけに頼らず対話によりイメージを共有する鑑賞活動に各地で関心が高まっています。そこでは、目の見えない人にとっての、触覚だけに頼らない美術鑑賞の可能性も探られています。  
 本展チラシのコピー「みることプラス さわることプラス はなすことプラス」は、異なる感覚で人それぞれが胸に抱いたイメージを寄せ合ってみたいといった姿勢を示しています。

■ 交流のアイデア
 今回の開催テーマは、「視覚障がいのある方にも楽しめる展示」です。会場には、みる、ふれる、はなす、などなどアートに近づくアイデアを用意しています。それらがばらばらで終わるのではなく、異なる感覚や感想を寄せ合うことでより豊かな美術鑑賞の機会が生まれることを目標とする展示です。手で見るコーナーや音声ガイドなどが、見えない人も見える人も含めた、交流のヒントとなるような美術館の姿を提案できればと思います。
 会場では希望する方に、一部の作品について手で見る体験もしていただけます。道具や日用品と違って、美術品は汚れや傷みの危険性が大きいため、基本的に手で見る機会はありません。また手指による鑑賞があまり適さないタイプの美術表現もあります。今回は、ごく入門的に彫刻の魅力や工夫を手でたどってもらいやすい作品を選びました。また、触るレッスンに役立ててくれるならと、県内の作家さんから小品をお借りできました。表情豊かな彫刻作品と、いつもと少し違う出会い方をしてみてください。彫り跡や、材質感など、頭で理解したつもりの見た目の感覚と、指先から想像がふくらむ世界の広さの違いに驚かれることでしょう。見知ったはずの事柄に出会い直す、そんな体験は美術鑑賞の醍醐味の一つだと思います。
 展示室では他にも、これまで作成した「触図」と作品を合わせて紹介しています。絵の輪郭を指で確認できるグッズです。それらは当館スタッフとともに歩んでくださっている、アートイベントサポーターの皆さんの知恵と手作業のたまものです。目の見えない方も、そのグッズをヒントに、どんな様子の絵なのか、対話を楽しんでいただけると思います。それはアプローチの一つでしかありませんし、輪郭図が絵画鑑賞のかわりになると言うわけではありません。それでも、あの手この手で作品に近づく道の一つにはなると思います。作品に親しむ道は様々にあり、他者と美を共有する道もまた幾通りもあることを、楽しんでいただけたらと考えています。

                  (徳島県立近代美術館 上席学芸員 竹内利夫)

  
          展覧会ポスター 

徳島県立近代美術館 12月の催し物

[展覧会]
◆所蔵作品展「ユニバーサル美術館展」 12月1日(土)―2019年1月23日(水)
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2018年度第3期 特集「シルエット」  
 12月8日(土)―2019年4月14日(日)

〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説 「徳島のコレクション」12月9日[日] 14時から14時45分まで

〔ユニバーサル美術館展 関連イベント〕
◆手話通訳付きツアー 12月2日(日)10時-12時
あの手この手で交流トーク(サポーターによるリハーサル。お試し参加歓迎です。) 12月2日(日)14時-15時
◆美術×音楽で楽しむ表現・鑑賞活動 (保育者、教員のための催し) 12月15日(土)16時-18時
「音楽×美術で〈きいて〉〈みて〉〈さわって〉〈つくって〉楽しむワークショップ」 12月16日(日)10時-12時 講師:髙木夏奈子〔植草学園大学 准教授〕 定員20名程度(先着順) FAX,電話で申込
◆ゆるやか対話ギャラリー -美術を探っていくための演劇タイム- 12月23日(日・祝)13時-16時30分
仙石桂子[即興演劇シーソーズ主宰・四国学院大学准教授]+スペシャルゲスト:やなせけいこ[デフ・パペットシアター・ひとみ] 定員20名程度(先着順) FAX,電話で申込
演劇や音楽の体験を交えながら、作品鑑賞をみんなで深めていきます。観客役の見学も歓迎です。
◆こども鑑賞クラブ「みんなにやさしい美術館」 12月22日(土)14時-14時45分
◆ミニ案内 障がいのある方など、鑑賞方法の案内を希望される方は、事前に担当者までご相談ください。できるだけ対応させていただきます。平日の午後のみ。(担当:竹内・亀井)
◆催しに手話通訳や要約筆記をご希望の方は、2週間前までにご相談ください。
◆1月にも催しを予定しています。