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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
版画は魔法?!

 徳島県立近代美術館のコレクションの柱の一つである現代の版画を、この秋集中して紹介しています。  
 この特集展示では、現代版画ならではの面白さに注目したいと思います。木版画でダイナミックな色彩空間を表した吹田文明(阿南市出身)をはじめ、斬新なアイデアで版表現の可能性を広げた作家たち12人を選びました。木や金属など様々な材質の特性により、手描きとは異なる表情が多彩に生み出される、版の魔法のような魅力とその作品世界をご覧いただけたらと思います。

■ 作品ガイド
 この特集展示で選んだ、12人の作品についてご紹介します。  
 吹田文明は、凸版の木版画の世界に、ドラマティックな色彩の奥行きと透明感をもたらしました。光る点や星の軌跡は、実はベニヤ板を大胆にくりぬいた無の部分の効果です。  
 萩原英雄は、伝統的な木版技法に学び、豊かな色彩感覚をギリシャ神話の想像の世界に活かしています。  
 小林敬生は小サイズが一般的だった「木口木版」技法で大画面を展開します。つぎ合わせの妙が不思議な視界へ誘います。  
 加納光於のオーロラがたちのぼるかのような色彩世界は、実は一枚の銅板による多色刷りです。黒刷りの作品と違いをご覧ください。  
 一原有徳は、板上に描いた模様を転写するモノタイプ技法で、何度見ても架空の奥行き感にだまされる面白さに魅了された作家です。くちた金属の表面さえ想像力のバネにする独特の版表現を開拓しました。  
 中林忠良は、自然の朽ちるさまをイメージ化しようと、銅版の腐食を深く重ねることにこだわりました。  
 リトグラフ技法では、クレヨンや絵筆などで描いたままを精密に原版にできます。美しい平滑なインク面に、色々なタッチの描き味が置き換えられる不思議さが魅力でもあります。原健はクールなぼかし技法で、白髪一雄は身体運動を活かした無意識の描法で、リトグラフ作品を制作しています。  
 シルクスクリーン技法は、型染めに近い方法で、布目をすかしてインクをつけます。靉嘔の流れるような絵柄と色のグラデーションを、どうやって刷ったか会場で観察してみてください。(答えは、指の絵柄の型をずらしながら一色ずつ刷ったものです。)  
 また島州一(去る2018年7月逝去)は画像を自在に配置する方法を探求した人です。黒ずんだ子供の姿は(作品〈オモテとウラ〉)、実は二枚の像が重ね合せられていて、実像とも虚像とも言いがたい視覚を生み出します。  
 菊畑茂久馬も自作オブジェの写真を、別のイメージへと移す面白さに熱中しているようです。
 吉原英雄は、リトグラフの自在なタッチで描かれるイメージと、銅版の断片を共存させ、現実味と違和感がいり混じるドラマをみせます。  
 版を使うプロセスならではの遊び、可能性が、見る人だけでなくアーティスト自身をも魅了し熱中させているように思われます。ぜひ会場でご覧いただけたらと思います。

                  (徳島県立近代美術館 上席学芸員 竹内利夫)

  
    吹田文明〈魔術師〉 1968年 当館蔵                 一原有徳〈SIA〉 1982年 当館蔵     

徳島県立近代美術館 11月の催し物

[展覧会]
◆特別展「日下八光日本画展-自然美の探求と知られざる画業」 開催中―11月4日(日)
◆第38回近畿高等学校総合文化祭(徳島大会)美術・工芸部門展示 第37回徳島県高等学校総合文化祭 美術・工芸部門展示 11月9日(金)―11月18日(日)
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2018年度第2期 特集「版画は魔法?!」  開催中―12月2日(日)

〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説 「版画は魔法?!」11月11日[日] 14時から14時45分まで

〔その他のイベント〕
◆文化の森 大秋祭り
 11月3日〔土・祝〕9時30分から16時