所蔵作品展の20世紀の人間像のコーナーでは、現在、「比べる」をテーマに作品を展示しています。そして、それに続いて特集コーナー「特別公開 滋賀県立近代美術館所蔵作品〈イスファハーン〉」を設けています。そこには、フランク・ステラという画家が描いた〈イスファハーン〉という作品を展示しています｡この作品は、当館の所蔵作品ではなく、コーナー名にもあるように滋賀県立近代美術館の所蔵作品です。滋賀県立近代美術館は、作品の収集方針のひとつに「戦後のアメリカと日本を中心とした現代美術」を掲げ、質の高いアメリカ現代美術コレクションを有しています。現在、改修・増築工事のため長期休館中で、その間、この〈イスファハーン〉を当館が預かったことから、今回の特別公開となりました。
フランク・ステラは、戦後のアメリカの抽象絵画を代表する作家のひとりです。ここで〝抽象〟という言葉に注目してください。〈イスファハーン〉は、さまざまな色によるストライプで半円形が作られ、そういった半円形が縦横にいくつか組み合わされて大きな形を作っています。ステラの作品の中で、分度器シリーズと呼ばれるうちのひとつです。そこには風景や人の姿のような具象的なものはありません。抽象画です。
当館の収集方針は、近代と現代を時代的範疇としたうえで、具体的には「〈人間〉を主題とする作品を中心に収集する」となっています。ですので、この方針に沿って集められた当館所蔵の作品には、たとえば、近代の中村大三郎の〈二人舞妓〉や現代の坂井淑恵の〈間の人（The
man in Between）〉のように、ほとんど人の姿または人の姿らしきイメージが登場します。当館のコレクションを代表するピカソの〈ドラ・マールの肖像〉にしても、目や鼻など顔のパーツを前から見たところと横から見たものを組み合わせているので、なんだか変な気がしますが、描かれているのは女性の顔という具象的なものです。
中村大三郎〈二人舞妓〉 1926年
坂井淑恵〈間の人（The man in Between）〉 1995年
今回の所蔵作品展の展示の構成は、当館所蔵の人間像というイメージのある作品を見ていただき、その後、人の姿といったようなイメージのない、色彩と色彩によって作られた形態を特徴とする〈イスファハーン〉をご覧いただくようにしました。「比べる」の拡大版といった趣向です。比べることで、ステラが「私の絵は、そこに見ることができるものだけがあるということに基づいています。…あなたは、そこに見えるものを見ているのです」という、彼の絵画作品についての言葉を感得いただけるといいなと思っていました。
そして先日、来館者アンケートに次のように書いてあるのに出会いました。
美人画をずっと見ていたくなった。その横にある木炭画は心が吸い込まれるようであった。カラフルなカーブの物は見ていて面白かった。
作品が展示してある状況から、「美人画」とあるのは中村大三郎の〈二人舞妓〉、その横にあるのはロバート・ロンゴの〈無題〉という男性と女性を描いた作品、そして「カラフルなカーブの物」はステラの〈イスファハーン〉とわかります。具象的な作品では「ずっと見ていたくなった」「心が吸い込まれるようであった」と描かれている人物に心を奪われ、抽象の〈イスファハーン〉は「見ていて面白かった」と目の前にある色と形を楽しんだ方がいらっしゃった。実にうれしかった瞬間でした。みなさんも是非見てみてください。
(徳島県立近代美術館 上席学芸員 安達一樹)
徳島県立近代美術館 8月の催し物
［展覧会］
・愛されて40年『100万回生きたねこ』 佐野洋子の世界展 開催中～9月2日（日）まで
・所蔵作品展 徳島のコレクション2018年度第2期 特別公開 滋賀県立近代美術館所蔵作品〈イスファハーン〉
開催中～9月17日（月・祝）まで
［愛されて40年『100万回生きたねこ』 佐野洋子の世界展の関連イベント］
・学芸員の見どころ解説 8月11日(土・祝) 、8月26日(日) いずれも午後2時～3時
・ワークショップ「ねこに変身しよう」 8月19日(日) 午前9時30分～午後3時30分 随時受付 所要時間の目安：30分
［所蔵作品展の関連イベント］
・展示解説 8月5日(日) 午後2時～2時45分
・文化の森サマーフェスティバル ウェルカムツアー「たのしい鑑賞」 8月19日（日) 午前11時30分～正午、午後2時～2時30分の2回
［そのほかのイベント］
・パフォーマンス・セレクション2018 ～真夏の夜の競演～ チャレンジとくしま芸術祭 10回記念 野外公演 8月1日(水) 午後6時30分～8時30分
すだちくん森のシアター
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