厳しかった寒さもしだいにやわらぎ、そろそろ春めいてきました。新しいことはじめるのにも絶好の季節です。この春から何かやってみようかな、と思っている方に、徳島県立近代美術館でのボランティア活動をご紹介します。
近代美術館でのボランティア その1 「ビボラボ」:平成15(2003)年~
近代美術館のボランティアは平成15年に始まります。平成7(1995)年の阪神・淡路大震災をきっかけに全国的にボランティア活動への関心が高まり、各地の美術館でもボランティアへの取り組みが活発化し、徳島の美術館でもボランティアを導入することになりました。
そのころのボランティアといえば、募金活動や清掃・ゴミ拾いなどの相互の助け合いや無料奉仕的な活動のイメージがまだまだ強く、また美術館のボランティアといえば作品の監視や案内、資料の整理、といった内容が主流で、活動内容がある程度定番化している印象がありました。しかし同時に、ボランティアが主体的に活動内容を考えていく、という方向を模索する動きも各所で始まっている時期でした。
そこで、当館で新たにボランティアを導入するにあたっては、具体的な活動内容をボランティア自身で考えて決めてはどうか、と考えました。そして、公募によるボランティアの皆さんと、「美術館で何ができるか」について、ブレーンストーミングを中心とした相談を何度も繰り返し、多くの人々が楽しく過ごせる、親しみのある美術館を目指した各種のイベント開催に取り組むこととなります。
作品を身体で物まねする、絵を見てダンスをする、寝転んで作品を見る、お気に入り作品の投票、クイズラリー、お芝居やゲーム、パペットなどで作品をガイドする、作品鑑賞の紙芝居を作る等、今では各所で広く実施されるようになったアイデアを、他館に先駆けて柔軟に次々と実現していきました。時には美術鑑賞の場所として従来のタブーに挑むような内容もあり、賛否両論でしたが、美術館の未来に向かってトライする精神で取り組んでいきました。そんな活動は平成15年から3年続き、平成18(2006)年4月1日結成の任意団体「ビボラボ」に引き継がれて今日に至っています。「ビボラボ」では、地域の文化祭への出展や幼稚園でのイベント参加など、活動範囲も拡げていきました。
この「ビボラボ」は、自主的で創造的な活動だけに、継続には相当の覚悟と負担が求められます。また、若い学生会員の就職による県外転出や、会員の高齢化、また各所でボランティア活動の選択肢が近年増えてきたことなどもあり、ここ数年はメンバー数が伸び悩み、残念ながら活動を縮小しています。それでも、発足前後の情熱にあふれる開拓者精神は、現在の当館の教育普及や学校との連携活動の枠を拡げる素地の1つを作ってきたと言えるでしょう。
近代美術館でのボランティアその2 「アートイベントサポーター」平成23(2011)年~
「ビボラボ」は、自主的で公共性も高く、創造性のある魅力的な活動ですが、その一方で、加入するにはややハードルが高く、またやる気はあっても時間がとれない、という人も数多くいます。
そこで平成23年度より、「ビボラボ」と並行して、新たに「アートイベントサポーター」制度を始めました。具体的には、近代美術館が実施する事業をサポートするボランティアスタッフです。サポート対象の事業と日時を美術館が設定し、その中から希望の日時を選んで活動ができる一種の登録制です。
ボランティア側の多種多様なニーズ(自分が興味のあることをしたい、自分の都合のいい日に活動したい等)を、できるだけ多様なままに受け入れるこの仕組みなら、「ビボラボ」加入には踏み切れない人も参加しやすくなり、これをきっかけに、さらに発展すれば素晴らしい、と考えたのです。
ちょうど予算も職員数も削減と低迷が続く不況の真っ只中。ボランティアは人手不足の解消に役立つのでは、と言う考えも一部にはありました。しかしそれは何があっても避けなければなりません。そこで最も注意したのは、ボランティアの応募がなくても実施できるように事業を企画することでした。そこにボランティアの力が加わって、より実り豊かになることを目指すのが「アートイベントサポーター」なのです。
これまでにサポーターを募集した事業は、堀尾貞治さんや大久保英治さんなどの現代アーティストのワークショップをはじめとする各種の講座、「チャレンジとくしま芸術祭」、「美術館ユニバーサル事業」、「遠足見まもり事業」など様々です。それでは、平成29年度の取り組みを具体的にご紹介しましょう。
平成29年度「アートイベントサポーター」の取り組み
今年度は三つの事業でサポーターを募集しました。
(1)「フリースペース チャレンジとくしま芸術祭2018」
徳島発のアーティストの発見と支援を目指すこの事業に集まったサポーターは、これまでにこの芸術祭への参加経験のある人や、いつかチャレンジしてみたいという思いを持ち、まずはサポーターとして経験してみようという人などです。「展示部門」の作品の搬入や展示、撤去作業、「パフォーマンス部門」の受付等などの活動を通して、きめの細かいサポートで事業を盛り上げてくれました。

展示部門の展示作業 (フリースペース チャレンジとくしま芸術祭2018」の運営)
(2)美術館ユニバーサル事業
この事業は、誰もが心地良く利用できる美術館を目指して、様々なニーズを持つ人と一緒にアイデアを出し合って、具体的な改善策を形にしていく事業としてスタートしました。視覚や聴覚に障がいのある方もサポーターとして活動に参加しています。
今年度は、物づくりの好きな人と目の見えないサポーターを中心にアイデアを出し合い、「美術×本=楽しさと多様性」展[2017年8月26日(土)-10月9日(月・祝)]と「廣島晃甫回顧展」[2017年10月21日(土)-12月10日(日)]の二つの展覧会から1点ずつ作品を選び、「触察図(絵画に描かれている線や形を凹凸や触り心地の違う素材で表したもの)」を作りました。

触察図を作製中(美術館ユニバーサル事業)
この二つの展覧会では、目の見えないサポーターが同じ障害を持つ知人たちを誘って美術館に来館し、グループでの鑑賞会も行いました。絵画に何がどのように描かれているかを言葉だけで説明するのはとても頼りなく、時間も集中力も必要です。触ることで作品理解の手助けになる「触察図」を活用することで、描かれているものの表情や雰囲気、作品からイメージをしたことなど話題もひろがり、楽しい鑑賞会となりました。

「廣島晃甫回顧展」での鑑賞会の様子(美術館ユニバーサル事業)
(3)遠足見まもり事業
遠足等で見学に来た大勢の子どもたちに対して、引率教員や美術館職員だけでは、充分な支援ができていないと感じることがあります。この事業は、集団行動が苦手な子どもや、美術館の雰囲気に緊張している子どもなども、みんなが安心して楽しく団体での鑑賞活動ができるようにサポートする活動です。サポーターには、保育士経験のある方や、子供が大好きな方が集まってくれました。展示室で子どもたちが活動する様子を見守り、集団から離れている子どもにはそっと寄り添い、作品に接近している子どもにはやさしく声をかけてくれます。展示室でしてはいけないこと(走らない、さわらない、騒がない等)を注意ばかりされていては、楽しいはずがありません。「ゆっくり歩こうね。」「少し、離れて見てみようね。」「作品から面白いものを見つけたね。」と、やさしく共感的に話を聞いてくれるサポーターは、子供たちにとって心強い存在です。子供たちは、作品の中に見つけたものや感じたことをいっぱいお話ししたくて仕方がありません。子どもの話を聞いているサポーターにも笑顔があふれます。

園児たちの話を聞いているサポーター(遠足見まもり事業)
これら三つの事業については、平成30年度も、引き続き「アートイベントサポーター」の募集を行う予定です。募集の情報は美術館ホームページなどで随時ご案内します。美術館をより一層充実させていくために、あなたのお力と熱意をお待ちしています。
(徳島県立近代美術館 上席学芸員 友井伸一、係長 亀井幸子)
関連のホームページもご参照下さい。
「ビボラボ」のページ
http://www.art.tokushima-ec.ed.jp/bora/index.html
「アートイベントサポーター」のページ
http://www.art.tokushima-ec.ed.jp/events/supporter/index.html
徳島県立近代美術館 3月の催し案内
[展覧会など]
○生の刻印 アール・ブリュット再考 展
開催中~3月4日(日)
徳島県立近代美術館 展示室3
○フリースペース チャレンジとくしま芸術祭2018 受賞者発表会
3月17日(土)、18日(日)
*パフォーマンス部門は18日(日)のみ
徳島県立近代美術館 展示室3/徳島県立二十一世紀館イベントホール
○所蔵作品展「徳島のコレクション 2017年度第3期」特集 石丸一・島あふひ兄妹
開催中-4月15日(日)
[イベント]
○こども鑑賞クラブ「アール・ブリュット展」 *子ども対象の鑑賞ツアー
3月3日(土)14:00-14:45
会場:徳島県立近代美術館 展示室3
講師:近代美術館スタッフ
小学生対象(保護者同伴可) 参加無料 申込み不要[開始時間までに2階ロビーに集合]
○講演会「障がい者アーチストはぐくみ講座「障がいのある人の表現活動について ビッグ・アイの取組みから」
3月4日(日)13:00~14:30
会場:徳島県立近代美術館 講座室(3F)
講師:鈴木京子[国際障害者交流センター ビッグ・アイ アーツ・エグゼクティブプロデューサー]
どなたでも 無料 申込み不要
*手話通訳、要約筆記、ヒアリングループ付き
○展示解説 石丸一と島あふひ兄妹*徳島のコレクション 2017年度第3期」関連。
3月11日(日)14:00-14:45
会場:徳島県立近代美術館 展示室1
講師:江川佳秀[副館長兼学芸調査課長]
どなたでも 観覧券が必要 申込み不要
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