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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
「生の刻印 アール・ブリュット再考」展

 近代美術館では、㋁10日(土)から3月4日(日)まで、県の障がい福祉課と共催で「生の刻印 アール・ブリュット再考」展を開催しています。
 現在、障がい者の美術作品を普及推進することは、2020年の東京パラリンピック開催に向けての文化ブログラムとして位置づけられています。そのため、各自治体で様々な取り組みが企画されています。この展覧会も徳島県がおこなう文化プログラムの一つです。その時、障がい者の美術作品の呼称としてフランス語の「アール・ブリュット」という言葉が主に用いられています。日本語に訳すと「生(き)の芸術」。
 しかし、この言葉を最初に用いた画家、ジャン・デュビュッフェが用いた意味は、障がいの有無といった属性から規定されるものではありませんでした。幅広く、抑えきれない衝動で表現に向かう態度に共通性が見られる作家たちの作品のことを指していたのです。
 この展覧会で紹介する作品は2010年にパリで開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展の出品作です。この展覧会では、フランスの美術館長に選ばれた65作家の作品が紹介されました。今回は、その出品作品の中から26作家213点の作品を展示しています。
 抑えきれない衝動と言っても、その現れ方は様々です。その中でも、あるモチーフを繰り返すということは、作家がそこに強い関心があることを想像させます。


伊藤峰男<いとう みねお>2003-2008年
 例えば、伊藤峰尾は自らの名前「いとうみねお」をひたすら書き続けています。彼が名前を書き始めたのは、せめて自分の名前くらい書けるようにと父親から教えられたことが始まりです。しかし、いとうみねおと言う文字のつながりから模様のような形ができることへの関心が、名前を書き続けていくうちに生じたようにも思えます。


芝田貴子<お母さん>1996-2001
 芝田貴子は「お母さん」と言うタイトルで、青系の色のスーツを着た女性を繰り返し描いています。おそらく、誰もがこの女性が彼女のお母さんであると想像すると思います。ところが、彼女の実際の母親は作品のようなスーツを着たことは一度もないというのです。それでは、繰り返し描かれたお母さんとは一体誰なのか、芝田にとってどんな存在なのか興味深いところです。


畑名祐孝<東京タワー>2002~2003年
 畑名祐孝にとって、「東京タワー」はこだわりのあるモチーフです。しかし、この作品では、私たちの知る「東京タワー」とは全く異なる建造物が描かれています。もしかしたら、スカイツリーの方がまだ似ているようにも見えますが、作品が描かれたのはスカイツリーが建つ以前のことです。滋賀県在住の畑名にとって、「東京タワー」は身近なものではありません。どんな経験を経て、彼の「東京タワー」は描かれたのでしょうか。


木村茜<お線香花火>2003年
 木村茜の作品名は「お線香花火」。「お線香」も「線香花火」も静的な印象を受けるものです。ところが、木村の「お線香花火」はそのどちらを連想させるものではなく、激しい筆致で描き続けられています。
 今、お話ししたのはほんの一例に過ぎません。これ以外にも顕著な特徴が見られる様々な作品をご覧いただけます。
 是非、展覧会場に足を運んでいただき、それぞれの作家の表現はもちろんのこと、どんな想いが込められているのか、想像してみてください。
                (徳島県立近代美術館 上席学芸員 吉川神津夫

徳島県立近代美術館展覧会案内

・「生の刻印 アール・ブリュット再考」展  
 2月10日(土)-3月4日(日)
 ギャラリートーク  
 2月11日(日・祝)10時30分から10時50分、13時30分から13時50分、15時から15時20分
 2月18日(日)14時から14時45分
・所蔵作品展「徳島のコレクション2017年度第Ⅲ期」  
 開催中-4月15日(日)
・文化の森 ウインターフェスティバル
 2月11日(日・祝)

作品は全て日本財団蔵。
写真:大西暢夫