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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
特別展  廣島晃甫(ひろしま こうほ)回顧展
-近代日本画のもう一つの可能性

20171021日[土]―1210日[日]

 この展覧会は、近代の日本画の歴史のなかで目覚ましい活躍を見せた廣島晃甫(1889―1951年)の初めての回顧展です。多くの人に展覧会をご覧いただけるよう、彼の画家としての生涯を簡単にご紹介します。

◆徳島市出身

 晃甫は、現在の徳島市幟町に生まれました。本名は新太郎。少年時代の晃甫は、はにかみ屋でおとなしく、絵を描くのが大好きな少年だったといいます。

◆個性的表現と画壇デビュー
 子ども時代から熱心に絵を描き、東京美術学校(現・東京藝術大学美術学部)日本画科に入学。洋画や西洋の新しい美術の傾向に関心を示し、幅の広い勉強を行いました。卒業制作〈玉乗り〉(1912年)は、軽業師の女性を大胆に描いています。
 卒業後の数年間はなかなか認められませんでしたが、当時、画壇の最高権威と目されていた帝国美術院展(帝展)の第1回展(1919年)で〈青衣の女〉がいきなり特選を受賞。翌年の第2回帝展でも〈夕暮れの春〉が連続して特選となります。新鮮な表現で、画壇に劇的デビューをはたしました。
 ちなみに「晃甫(こうほ)」の雅号は、オランダの画家、ゴッホを漢字に置き換えたものと言われています。西洋から学び新しい日本画をつくろうとする意気込みが、ここからも伝わってきます。


 廣島晃甫〈夕暮れの春〉 1920

◆創作版画の実験と探求
 彼は、版画の分野でも重要な業績を残しています。1916(大正5)年に長谷川潔、永瀬義郎と日本版画倶楽部展を開催したのです。原画の制作から彫りや刷りまで一人の作家が行う創作版画の団体展として、日本初の試みでした。


 廣島晃甫〈夕暮れ小景〉 1922年

◆多彩な表現の試み
 大正末から昭和初期、30歳代後半から40歳代の晃甫は、帝展の委員や審査員を務めるなど、画壇での地位も上がりはじめます。この頃は、多彩な表現を見せています。平安装束の男女を描いたかと思うと、花や動物にやさしい視線を注いだ作品を描くなど、幅の広い表現を試みました。


 廣島晃甫〈猫〉(部分) 昭和初期

◆ヨーロッパへ
 1931(昭和6)年には、ドイツのベルリンで開催された日本美術展に役員として渡航します。展覧会の仕事を終えてから、1年をかけて妻とヨーロッパ各地を旅行し写生も重ねました。また、ヨーロッパ滞在中、各国の博物館を訪ね、敦煌(とんこう)で発見された中国・唐時代の仏教絵画などを模写しています。


 廣島晃甫〈ビール・フランシュ南欧の海辺〉 1931年


 廣島晃甫〈ベルリン民族学博物館での模写〉 1931年

◆帰国後の活躍と沈潜
 帰国後の晃甫は、多くの展覧会に出品しましたが、大正期のように個性表現を励ます時代ではなくなっており、「日本」的な花鳥画を中心にした温和な画風の作品を描いていきます。
 この頃、表向きは旺盛に活動したように見えながらも内部に沈潜し、時代に背を向けるようになっていました。神秘主義に惹かれていた晃甫は、一人物思いにふけることも少なくなかったと言います。



廣島晃甫〈美鳥〉 昭和前期

◆戦後の新感覚
 第二次世界大戦が終わり、疎開先から東京に戻った晃甫は、雅号を「滉人(こうじん)」と変えて再出発をはかります。体調を崩し体も思うように動きませんでしたが、戦後の日展出品作〈窓辺静物〉(1949年)や〈秋圃〉(1950年)を見ると、充実した気力が伝わってきます。とくに、明るい色彩と簡潔に構成された〈窓辺静物〉は、新時代の息吹を伝えるかのようなモダンで新鮮な感覚に溢れています。若い頃に抱いた新しい日本画をつくろうとする夢を、戦後の日本で再び実現しようとしたものでした。しかし、その夢を充分叶えることなく、1951(昭和26)年12月、病のため62歳で亡くなっています。


廣島晃甫〈秋圃〉 1950年

◆おわりに
 晃甫は自分を説明するのが苦手で、誤解されることが多い人でした。若い頃は変人と見なされ、デカダン(退廃)を指摘されることもありました。第1回帝展の特選受賞作は暴漢による墨塗り事件で台無しになる不運があり、「洋画臭」の批判にも晒されるなど、賛否両論が語られたものでした。しかしその生涯をたどっていくと、明治末、大正期に育んだ新しい日本画をつくろうとする意欲を持ち続け、日本画とは何かを考えながら、戦後や現代の日本画につながる可能性を示した姿が見えてきます。  
 今回の回顧展では、他の美術館からお借りした作品を含め、晃甫の各時期を代表するおよそ100点を展示します。画業を初期から晩年まで見渡すことができる機会ですので、実際の作品からその魅力を感じ取っていただければ幸いです。

             徳島県立近代美術館 企画交流室長 森 芳功


徳島県立近代美術館 10月の催し案内

[展覧会]
・特別展「廣島晃甫回顧展-近代日本画のもう一つの可能性」
 10月21日[土]―12月10日[日]
・所蔵作品展「徳島のコレクション 2017年度第2期」  
 開催中―11月26日[日]

[廣島晃甫回顧展 関連イベント]
・展示解説* 10月22日[日] 14:00~15:00  展覧会場
・手話通訳つき展示解説  10月22日[日] 10:00~11:30  展覧会場
 *は、ヒアリングループあり:テレコイル付き補聴器、人工内耳に講師のマイク音声がはっきり聞こえます。また、要約筆記を希望の方は2週間前までにご相談ください。

[所蔵作品展などのイベント]
・レクチャー 菊畑茂久馬の制作  10月1日[日] 14:00~15:00 講座室(3階)
・こども鑑賞クラブ 菊畑茂久馬の世界  10月7日[土]  14:00~14:45  展覧会場
・学芸員の見どころ解説(「美術×本=楽しさと多様性」展) 10月9日[月・祝]]
 14:00~15:00  展覧会場
・レクチャー ユニバーサルな美術館を求めて  10月14日[土]  14:00~15:30  講座室(3階)