世界中でいま注目されている、電子健康記録(Electronic Health record, HER)。すべての人々の健康や医療データがまとめられ、クラウドに登録されている。患者がいつどこの病院にかかっても、担当医がインターネットでアクセスすると、すべての医療情報を把握可能だ。具体的には、これまでの病歴や診断、治療、X線やCTのデータ、アレル ギーの有無など。これらは重要かつ安全で、リスクを回避し最適の医療を提供できる。
◆デジタルが 医療を進化 エストニア
さて、この国はいったいどこであろうか? 北欧でバルト海沿岸に並ぶバルト三国 のエストニアである。かつてロシアの支配下にあり、ロシア革命後に各国が独立した
が、1940年にソ連に併合された。半世紀後に東欧革命が勃発し、1991年に再びバルト 三国は独立を果たした。三国とも首都の旧市街区域は世界遺産に指定されている。以
前、三か国を訪れた際、高速バスで各首都を数時間で移動でき、街並みはとても美し かったことを思い出す。 なぜこのような発展が可能となったのか? いくつかの理由が挙げられよう。エス
トニアには特別な「遺産(レガシー)」がみられない。そのためエレクトロニクス(e) を活用する「eネーション」を目指す新たな国策が提言された際にも、抵抗する既得
権益者はなかった。そこで、行政や社会福祉の全般に対して、効率的に業務が進む 「ペーパーレス社会」を到来させ、デジタル化が 円滑に推進できたといえ よう。そして特に医療が 最先端のレベルと評価されている。
◆社会的 権利をうまく 活用し
同国は、「Internet is a social right(イン ターネットへのアクセスは基本的人権)」と標榜 し、国民全員が電子IDを持ち、99%の公共サービ
スをデジタル化した。デジタル化されていないの は、結婚や離婚、不動産の売却の手続きぐらいと される。
デジタル化に際して重要な3点を挙げる。①教育基盤:子供のIT教育を1990年代から開始し、プログラミングやロボット教育、e-Schoolなどが生活に溶け込む社会だ。②操作性:各自がマイページにログインすると、自分の過去の学業成績から医療情報にいたるまで全てが見られる。ただし、ヘルスケアに関する自身の情報の公開はon/offを自分で決定できる。③信頼性:マイページに他人がアクセスした場合、ログ一覧がいつでもチェック可能でプライバシーを保持し、分散型のシステムを構築して単一障害点をなくしセキュリティを担保している。
我が国でもデジタル庁設置が最優先課題と位置づけられている。デジタル庁は今後司令塔となり、日本の未来図を明るいものとし、個人社会のさらなる発展に期待したい。
(板東浩、医学博士、ピアニスト、https://www.pianomed.org/ )
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