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中央テレビ編集 


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美術館からのエッセイ
この素晴らしき世界 希望の園作品展

 近代美術館では2月10日より、「この素晴らしき世界 希望の園作品展」を開催します。この展覧会は、2017年度から毎年開催してきた「アール・ブリュット再考展」を引き継ぐ展覧会です。全国の障がい者福祉施設・アトリエにご協力いただき、そこで生み出された作品を中心に紹介しています。
 今回紹介するのは、三重県松阪市にある特定非営利活動法人希望の園です。希望の園は松阪市郊外の静かな田園の中にあります。そこに併設されたアトリエで、作家たちは気のおもむいた時間にやってきて、制作に取り組んでいるのです。また、このアトリエの特徴は、音楽と共にあることです。今では珍しくレコードを数多く所有しており、プレーヤーで音楽がかけられています。この展覧会のタイトルを「この素晴らしき世界」というアメリカの音楽家ルイ・アームストロングの曲からとったのも、音楽に溢れる希望の園のアトリエにふさわしいと考えたからです。
 希望の園の絵画の特徴は、多くの作家が油絵に取り組んでいることです。もちろん、油絵ですから手ほどきが必要です。地塗りをすることや油の使い方を教わった後、それぞれのスタイルを確立していったのです。
  作品は、みえ県展にも意欲的に出品されており、出品規約に合わせて100号の大きな作品が制作されることもありました。また、県展をはじめとする展覧会への出品は三重県内にとどまらず、全国各地に及んでいます。
 油絵が始まったきっかけは、川上建次が関心を持ったことでした。川上の作品の特徴は大画面に激しいタッチで獣のような人間を描くことです。モデルは、70年代初頭の戦隊ヒーローや友だち、希望の園の職員、思い出など。精力的に制作を続けた彼は、希望の園を代表する作家の一人です。


川上建次 <流血雄也> 2017年

 川上とは対照的に、細部まで描き込むのが早川拓馬の特徴です。早川の好きなものが、アイドルと電車。その二つを組み合わせて作品にしているのです。しかも、ただ単に同じ画面に描くのではなく、その二つが複雑に絡み合って描かれているのです。


早川拓馬 <満員電車でアイドル交流会> 2019年

 希望の園の作家たちはこの二人以外にも、様々な特徴を持っています。森啓輔は写真で見た有名人の姿をデフォルトしたうえ、何色も用いて描いています。また、奥亀屋一慶の作品タイトルにはプーチンやバイデンなど現在の政治家の名前が見つけられます。奥亀屋の手にかかれば、彼らがどんな風に描かれているのかは、是非、実際に見て確かめてください。彼がこのようなモデルを選ぶきっかけとなったのは、希望の園では美術以外にも、音楽活動や歴史や政経、文学等の生涯学習も行っていることがあります。そして、これらの活動は相互に影響を与えあっているものです。
 理事長の村林真哉は、団体の活動について、「みんなで希望の園というひとつの作品を創っている」と語っています。「希望の園」がどのような作品なのか、是非ご覧ください。

(徳島県立近代美術館 上席学芸員 吉川 神津夫)


[展覧会]
◆「この素晴らしき世界 希望の園作品展」 ―22023年2月10日(金)-2月26日(日)
(「この素晴らしき世界 希望の園作品展」関連行事)
◆ゲストトーク  2月12日(日) 14時から15時30分まで  
 講師:村林真哉(特定非営利活動法人希望の園 理事長)
◆「学芸員による展示解説」 9月5日(日) 14時から14時45分まで
◆所蔵作品展「徳島のコレクション 2022年度第3期  ―2023年4月9日(日)