■交流を紹介します
開館30周年を迎える徳島県立近代美術館では「ドイツ 20世紀 アート」展を開催します。この展覧会は、徳島県とドイツ・ニーダーザクセン州の友好関係を背景に企画されました。展示会場の一角では、同州の州都ハノーファーにある、シュプレンゲル美術館と当館の交流について紹介するコーナーを設けます。
シュプレンゲル美術館は1979年開館。20世紀美術をテーマとするドイツ有数の美術館です。先進的なアトリエ活動でも注目されてきました。当館との交流は2011年に始まります。教育普及活動の分野で交流するアイデアが実現し、2013年に当館学芸員がドイツへ滞在して鑑賞教育プログラムを交換し実践するというユニークな交流関係がスタートしました。
■ヤッピーネ誕生
この取り組みの特徴は、プログラムを実際に交換する点にあります。当館でたくさんの子供たちや一般の方にも体験していただいた、「よーいアクション!」や「勝手にしんさいん」といった交流型の活動を、実際にドイツの人たちに体験してもらいました。もちろん、ドイツ滞在中の活動をコーディネイトしてくれた教育部門のザント学芸員やスタッフとの打ち合わせと理解があって実現することですが、先方のスタッフもお客様も、ドラマ仕立ての活動で自分を表現することには慣れていて驚きました。それでも、日本の私たちが発想したゲーム仕立てのアイデアを新鮮に感ずる点も多いようで、楽しんでもらえた様子でした。
シュプレンゲル美術館の人気プログラム「パオリーネ」の体験には筆者も大いに感化されました。トランクに隠された日用品を、絵と結びつけて物語をつくるのですが、参加者の気負わない発言とそれに耳を傾けるのびのびした同館の空気をうらやましく感じました。このプログラムは日本に持ち帰り、徳島のお客様にもたびたびご紹介しています。ちなみにパオリーネは美術館に棲む妖精の名前です。ハノーファーを後にする時、ドイツで仲良くなった小学生が、パオリーネが日本(ヤパン)に行くなら「ヤッピーネ」だと命名してくれました。
■可能性に向かって
共感と刺激と。時間にすれば、回数にすれば、わずかな交流活動です。でも教育普及活動は人と人とのつながりが実体です。そこに関わる人の知識やテクニックだけでなく、生活や対人の経験まるごとが血肉となって営まれる活動だと思います。
その意味で、海をまたいで慣習も教育制度も違う国同士のスタッフが、生の交流経験を続けることには、有形無形の大きな可能性があると考えます。それを大きく育てることができるか否かはこれからにかかっています。世界的な感染症拡大の情勢から、現在の交流は十分に展開しにくい面もありますが、地道に持続したいと思っています。ドイツの風を徳島のお客さまにも届けたいと願っています。
会場ではシュプレンゲル美術館の鑑賞シートや、ザント学芸員のインタビュー映像も交えて紹介しています。ぜひ展覧会をご覧いただき、30歳を迎えた美術館で進行中のユニークな国際交流の試みに関心を持っていただけたらうれしいです。
(徳島県立近代美術館 上席学芸員 竹内 利夫)
「シュプレンゲル美術館」
「ヤッピーネのトランク」
徳島県立近代美術館 10月の催し物
〔展覧会〕
◆開園30周年記念「ドイツ 20世紀 アート」 -人・対話・みらい- ~フロイデ! ドイツ・ニーダーザクセン州友好展覧会~ 2020年
10月17日(土)―12月6日(日)
◆「徳島のコレクション 2020年度第2期 開館30周年記念 未来に向けて」 開催中―2020年11月29日(日)
◆「文化の森総合公園開園30周年記念野外彫刻展」 2020年10月27日(火)―11月8日(日)
〔「ドイツ 20世紀 アート」展 関連イベント〕
◆学芸員の見どころ解説 10月25日(日)14時-15時
〔所蔵作品展 関連イベント〕
◆展示解説「区切ったり、くくったり、束ねたり、まとめたり」 10月4日(日)14時-14時45分
くわしくはホームページをご覧ください。
https://art.tokushima-ec.ed.jp/category/0007204.html
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