Side B

このお話は｢夢の彼方に…｣を読んでくださった、たくみともみさんがプレゼントしてくれたものです。
あくまで、サイドストーリーとしての、アンジェリークのB面のお話です。

聖地での最後の夜。
守護聖たちが最後の別れを告げるために訪れていた私邸に、
最後の客として現れた女王補佐官ロザリアは、穏やかにたずねた。
「何かやり残していることはありませんでしょうか？」
一瞬の沈黙の後に、クラヴィスは
ある願いを聞き入れて欲しいと、静かに言った。

その願いは聞き入れられた。
最後の正装を身にまとったクラヴィスは謁見の間へと招き入れられた。
玉座には金の髪の女王が、大きな瞳を潤ませている。
「お待ちしておりました、クラヴィスさま……」
弱々しい声が二人だけの広い空間に響いた。
緋色の絨毯の上に立ち止まると、
クラヴィスはようやく口を開いた。
「最後のお別れにまいりました」
一段低い場所で頭を下げる前・闇の守護聖の姿に、
女王はゆっくりと歩み寄った。
俯いたままで、
言葉を選びながら長く心にとどめていた想いを伝えようとした。
「私は……いつも貴方のことを……」
――しかし、その想いは最後まで語られることはなかった。

窓外からさしこむ穏やかな光が、二人を包む。
女王の言葉を遮った口唇が、優しく呟く。
「時間は平等に過ぎてゆく……
過去も未来も、永遠に滞ることはない。
だが、
記憶というものは我々の心にとどまるものだ……
色褪せることもなく、永遠に……」
クラヴィスは女王の手を取り、ゆっくりと玉座へ導いた。
哀しみに濡れる頬を優しく撫でると、その指先で瞼に触れた。
そして、
僅かに残る闇のサクリアを、彼女のために捧げた。
ただひとりの、愛する人のために――

私の好きなリモージュちゃんを書いてくださってありがとうございます。
あの、自己満足の極みのような｢夢の彼方に…｣を読んで、こんなに素敵なお話を…本当に感謝します。

ＢＡＣＫ