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中央テレビ編集 


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自治随想
人口減少、少子高齢化時代の地方創生
~その6、小規模町村まで目配りできる地方分権~
小規模町村の将来
 2015年(平成27)時点の統計では人口1万人未満の町村は485 町村にのぼり多くが中山間地域や離島にあり、日本全体の人口の約2%、数で市町村全体の27.8%を占める。全てが条件不利益地域というわけではないが、現在でも小規模市町村については生活保護や建築確認等で府県が代行するケースもある。国土交通省の国土グランドデザイン予測では、国土面積の約5割に人が居住し、その6割で人口が半減、うち約2割は人が住まなくなり、人口規模別でみると全国平均の減少率がマイナス 24%に対し、人口 1~5万人規模ではマイナス37%、1万人未満ではマイナス 48%と予測、仮に8千人の町村なら4千人近くにまで減るとの予測となる。私の市長在任中の 2001 年第 27 次地方制度調査会(諸井虔会長・西尾勝副会長・松本英昭委員長)では、平成大合併で 3232 市町村から 1718 市町村へおおむね半減した小規模町村をどう扱うべきかが議論される。そもそも地方分権の受け皿づくりが狙いであった大合併が、いつの間にか財政効率化議論に変容し、10 年後に切れる財政特別措置が一段と財政危機を煽る。当時、議論された西尾私案 (小さな自治体創設や身軽な自治体の特例町村創設、都道府県の垂直補完・周辺市町村の水平補完・一定期間後の吸収合併)は「町村制の廃止」に繋がると現場からの反発が出る。自治権の縮小・制約を求められる当該自治体にとって心理的反発、受け入れられないとするのは自然であろう。しかしその一方で本格的な人口減少社会の到来を考えると、改めてじっくり構想する課題でもある。現在小規模市町村数は 500 を切っているが、現在そこから外れている市町村でもその枠に入ってくる可能性はある。人口減少の波は小規模自治体ほど厳しい現実となる可能性がある。日本の自治制度として、住民に公共サービスを保証する体制をどう構築するのか、根幹に関わる課題だ。また、人口規模が小さいだけで、特産品や豊かな自然・歴史など「まち」の魅力を忘れてはならない。規模論に拘り過ぎれば、現実に小規模町村が担っている独自の役割を見落としかねない。そもそも日本は可住面積が少なく沿岸部や河川流域に市街地が広がり、山間部に深く入り込んだ地域が町村になっているケースが多い。国土の 7 割り近くを山林が占め国土保全の役割、町村はそうした自然を守ってきた実績がある。農山村の維持は町村に託されてきたのだ。だからこの先、農山村は要らない、島嶼は重要でない、山林は崩壊してもよいとは誰も思わない。むしろ、自然の大切さ、環境の重要性が見直される世論が強まる。小規模自治体が輝く町村の出番は今後必ずある。全国各地で個性を生かす創意工夫によって、小さくてもきらりと光る町や村、地域が幾つもある。友人である首長の下で知恵を絞り、実践するスタッフ、志高い住民関係者を多く知る私の実感である。もちろん行政制度のあり方のみで町村制の議論をしてはならないし、その一方で公共サービスの住民への担保をどう保障するのかを別途考えなければ真の地方創生にはならないと思う。
 その視点に立つと、「郡」による広域連携が考えられる。古くから郡という広域の括りの 中で大正時代まで行政機能を有する行政制度があり、今は地理上の区分でしかなくなって いるが、注目すべきことには一部ではあるが広域行政の単位として事実上機能していると ころも存在していることだ。そうした郡でまとまって行政活動を行えば、絆の強い郡の広域連携が小規模の持つハンディをカバーできる可能性が高まるのでないか。地震・津波・洪水・山崩れ・風水害等災害の多い日本であるゆえに、例えば郡単位で森林公務員制度を創設して美しい緑と山林保全に常日頃から務める、そこに国の財政支援を行えば減災・防災対策となるというのだ。日本型州構想は、広域政策の枠組みを大きく広げ府県に代わる新たな州を創設する改革である一方、基礎自治体、特に町村について人口減での消滅を恐れるだけでなく、新たな社会貢献を評価し大きくテコ入れをし魅力を作り出す構想でなければならない。何度か訪問したスイスのように、美しい国土と自然を生かした産業の開発・夢と希望の持てる新たな町村を、今でも絆の残る日本の郡のような広域連携を工夫し、一部広域行政の単位として日本型道州制構想の中にケース・バイ・ケースで組み込んでいく考えもありそうだ。

◆日本型道州制構想への不安等
 道州制はまだ実体のない統治機構の構想だ。しかし、その狙いは東京一極集中、大都市圏への一極集中構造の大転換を図ろうとする。各広域圏の持つ潜在資源、潜在能力を活かし自立させることで、国内外に競争が生まれ人口も企業も増える可能性が出てくる。人口減少社会への対応として地方中核都市に所謂ダム機能を持たせるべきだが、より大きい枠組みとして広域圏の州にこそダム機能を持たせるべきではないか。個性的な地域圏の経営が行われることで地方の雇用も所得も増え、結果として過疎社会も減少していく流れが生まれる、と構想する。対して、国民は幸せになれるのか、判断材料不足、財源委譲、時期尚早、故郷が消える?、地域住民のニーズに添えるのか、強い政権ができるのか、メリット&デメリットなど不安の声が上がり、また道州制によって格差是正はできるのか、税財政はどうなるのか、自治を消滅させる、国を弱体化させる恐れがあるなど諸懸念の声も聞こえてくる。
 順を追って、①道州制導入で国民(住民)が幸せになるのかについて。小泉政権の構造改革(新自由主義的な改革)は魅力的であったが、結果的に大企業が富み多くの国民が疲弊、地域間格差は拡大する。そこで地方分権改革を加え、国と地方の役割分担三位一体改革 (国がやるべきこと、地方に出来ることは地方に)を推進する。簡素な統治機構に変え無駄を省き、国内に競争が生まれ経済は成長するとした。 ところが、②道州制についての判断材料が十分ではなく、将来のビジョンが見えない。法に基づく道州制国民会議・各ブロック単位の道州制地域会議などの議論と国民への周知ももちろんない。③肝心な財源委譲システムが不明だ。財源問題だけでなく権限・人間・仕事を地方に移し、住民の公共生活・行政サービスの質を高めるのが道州制の狙いである。7府県の関西広域連合は道州制への発展段階として県域内の協調また東日本大震災への担当被災地へのダイレクト支援等に成果を挙げているが、こうした広域連合は道州制への発展段階であり統治の主体ではなく協同組織と言える。地域主権の実現のために、こうした組織に国からの財源を移すことは道州制導入前に可能だ。④道州制移行は時期尚早でないかとの意見もある。分権国家にするメリットは理解できるが、地方には分権化して生き延びる体力があるかどうか。中央集権体制に慣れ国依存・官僚依存、3・11 東日本大震災等の国難事の「困った時の国頼み」意識も根強い。しかし一方で、地方分権を進めて徐々に自己決定・自己責任の地域づくり、住民との協働でまちづくり意識も芽生えつつあるので人口減少と財政危機で立ち往生する前に決断・実行すべきでないか。 ⑤故郷が消える?だから賛成できない。市町村合併で幾度も体験してきた論理であるが、府県名や地域名を何らかの創意工夫をして残す。むしろ地方圏が発展し州内で進学・就職が出来て若者が定着する、大都市から人が移り住む活力ある故郷を目指すことが出来ないか。⑥道州制になるとトップダウン的な政策決定となり、地域住民のニーズに適ったものになりにくい。日本人のアイデンティティの大きな要素である県民意識や文化・習慣等がなくなる心配をするが、むしろ逆にこれまでの中央政府からのトップダウンのやり方から道州制のボトムアップ的な政策決定の仕組みに変えるべきでないか。⑦こうした大改革を実行できる強い政権が出来るかどうかの問題。これにはしっかりとしたビジョンと行程表を示し、支持を訴え、選挙など政治参加を通じて政治的正当性を得る必要がある。⑧メリット、デメリット論からの国民の関心はどうか。日常生活において人々は保守的だが、改革の機運や信頼できるリーダーの言動により選挙の投票行動も変わってくることも事実であろう。
 次に、諸懸念については、人口 1~2 万人の小規模町村の「道州制の何が問題か」(平成 24年11月全国町村会刊)と全国町村議会議長会緊急声明(平成25年4月15 日)がその要点を抑えている。第1、人為的に道州という単位をつくり、事務処理能力を基準に市町村を再編し「基礎自治体」を設けても、決して住民の愛着や誇りの対象とはならない。第2、税源の豊かな大都市が発展し、乏しい地方は疲弊する。第3、結局、道州制は、魂の抜け殻のような「自治体」ならぬ「事務処理体」としての画一的な地方公共団体を作り出すだけ。これまで育まれてきた多様な暮らしや自治の営みを一気に消滅させてしまう。第 4、産業政策、通商政策を道州に任せれば日本経済が活性化するというのは国の役割を軽視した妄想に過ぎず、むしろ道州制は国を弱体化させるのではないかと不安・懸念が残る。 しかし一口に道州制といっても「中央集権型道州制」「連邦国家型道州制」「地域主権型道州制」などでその性格は違ってくる。不安や懸念を覚える主張の背景には中央集権型道州制がありそうだし、連邦型に近い地域主権型道州制は都市国家スタイルを分権型へのパラダイム(枠組み)転換、即ち「国の役割を外向きの外政中心に、道州・基礎自治体の役割を内政中心にシフトする改革」こそ、国家全体を強くするのではないか。今後の国のかたちとして、国民性・歴史・今日的諸課題等を踏まえた「日本型州構想」を練り上げたいものだ。 佐々木信夫中央大教授は、これまでの政府の道州制ビジョン懇談会報告や第 28 次地方制度調査会答申でも地域主権型を提案していると解釈できるとする。こうした構想の設計こそ急れている。

(徳島文理大学総合政策学研究科教授 西川 政善)