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中央テレビ編集 


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自治随想
地方創生自治体調査に見る企業誘致の現状と課題

◆はじめに
 直近の共同通信の自治体アンケートによる徳島新聞等各紙報道では、政府が地方創生の一環に掲げる東京23区からの企業誘致について、全市町村の76%は移転が実現するなどの成果はないと回答し、うち町村では計84%とさらに波及が弱く、多くの地域は企業移転に繋がっていない。その背景には、企業にとって取引先の多い東京圏を離れる決断は難しく、移転を促す優遇税制などの効果も限定的となっていることが窺える。

◆企業誘致 自治体アンケート内容
 この調査は平成30年11月~同31年1月にかけて全1788自治体(都道府県・23区・市町村)に実施、99%の1768自治体が応じている。地方創生は安倍内閣の看板政策であり、政府は東京23区にある企業に対し、地方の若者が地元で就職する機会を増やすため、本社機能の移転や地方拠点の拡充を求めている。しかしアンケート調査の結果、企業誘致の成果が「なかった」59%、「どちらかと言えばなかった」17%で計76%、対する「成果があった」3%、「どちらかと言えばあった」7%で計9%(四捨五入のため合計は一致しない)となった。但し政令指定都市と中核市、県庁所在市に限ると計32%は何らかの成果があったとしており、移転・拡充先は都市部に偏っている。  
 また、企業の移転・拡充のうち国の優遇税制の対象となった件数は、都道府県の回答によれば本社機能の移転が25件、移転先は15県に広がるものの茨城、栃木、群馬3県で計10件を占め、地方拠点の拡充は42道府県で計262件であった。地方創生に関するアンケートでは、移住者の増加などで一定の成果を認める自治体はあるが、最大の目標である出生増の手応えは乏しいと言わざるを得ない。  
 徳島県内24市町村に目を転ずると75%に当たる18市町村が、東京からの本社機能移転や地方拠点強化を進めた企業への国の優遇措置について「成果がなかった」「どちらかと言えば成果がなかった」としている。逆に、「成果があった」「どちらかと言えば成果があった」は12.5%の3市である。  
 前者の成果が「なかった」は阿南・吉野川市・阿波・美馬・佐那河内・神山・那賀・牟岐・美波・松茂・北島・藍住・つるぎ・東みよしの14市町村と、海陽町の「東京から地理的に大きく離れた本町にまで優遇措置のメリットは少ない」との意見もあった。  
 後者の成果が「あった」と回答したのは石井町のみ、その理由としてある種苗会社(京都に本社)が町内に研究施設を設け、徳島大との共同研究が行われていることを挙げた。私の住む小松島市と上坂町は「どちらかと言えばあった」としている。徳島・三好・勝浦の3市町は「その他」とし現時点で該当する案件はないが誘致に努めているとした。企業の移転・拡充のうち、県内で国の優遇税制の対象になった件数は、移転1件、拡充4件であった。


◆地方創生 自治体アンケートから見る今後の課題
 東京一極集中の是正や地域活性化を目指す地方創生についてのアンケート調査(共同通信)では、全自治体の計69%が「どちらかと言えば」を含めて成果があったと答えている。しかし、政府が目指す出生率の上昇には程遠く、主な成果は人口流出の抑制や雇用情勢の改善などにとどまっている。また、都市部の子育て世代などに暮らしやすさをアピールする自治体が増え、総人口が減る中で移住希望者の取り合い争奪戦が激しくなる感が強い。


◆アンケート内容と課題
 地方創生の成果が「あった」の12%に対して「どちらかと言えばあった」が58%と、積極的に評価する自治体が少ない上に、これらの地域でも栃木県は東京圏への人口流出や出生率など人口動態の改善が進まない実態を訴え、一方で呉市は地方創生の取組がなければさらに人口減少が進んでいたとしている。  
 成果が「なかった」3%、「どちらかと言えばなかった」18%計21%では、新しい人の流れが実感できない(北海道湧別町)、国の目指すべき姿が見えてこない(福島県伊達市)、個々の自治体が人口減少や東京一極集中と対峙するには限界がある(千葉県芝山町)など、更に政府のテコ入れを望む声も多い。  
 また、人口減少対策に取り組む自治体を支援する地方創生推進交付金についての全自治体向けのアンケートでは、申請手続きが煩雑32%、事業分野が限定され地域の実情と合わない29%と多く、とくには感じない15%と制度上戸惑いを持っているようだ。申請手続きは交付金の使途を説明する事業計画に加え、これと内容が重複する地域再計画の作成・認定も求められることへの不満も大きいようだ。事業分野においても生活基盤の整備や交通弱者対策などへの手強を求める声も上がる。このほか交付金の上限額が少ない3%、国が決める事業分野ごとの交付件数の割り振りが地方のニーズと合わない2%、その他12%は、現行で事業費の半分となっている国負担の引き上げや、最長5年の計画期間の延長も訴える。政府は交付金の運用改善について自治体実務者を交えた検討会議を設置し具体策を早急に打ち出す必要があろう。


◆若い働き手を過疎地へ派遣

 自民党の人口急減地域対策議員連盟(細田博之会長)は、過疎地への若手定住を狙って、全国の過疎化する各地に人材派遣の事業協同組合を新設し、都市部から移り住んだ若者を登録し、組合が農業や林業など地域の産業の働き手として派遣する、若者が安定した収入を得られ定住しやすくする、事業組合には公的財政支援を導入する、といった内容を提案している。

◆若い働き手を過疎地へ派遣

 自民党の人口急減地域対策議員連盟(細田博之会長)は、過疎地への若手定住を狙って、全国の過疎化する各地に人材派遣の事業協同組合を新設し、都市部から移り住んだ若者を登録し、組合が農業や林業など地域の産業の働き手として派遣する、若者が安定した収入を得られ定住しやすくする、事業組合には公的財政支援を導入する、といった内容を提案している。

◆グリーンインフラの導入
 2018年5月、日経地方創生フォーラム「官民連携と地域連携で実現する地方創生~実装に入った地方創生、具体的事例から考える持続可能な経済循環~」が大手町日経ホールで開催され、地方創生の新潮流、先進自治体・団体の取組、ITと地方創生、SDGs未来都市に向けた取組などをテーマに講演、議論があった。ここでの中心テーマ、グリーンインフラには三つの側面があると指摘、1つは国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)を加速させる新たな社会資本としての期待の高まりから欧米では投資が進んでいること、二つ目は地方財政が厳しい中、従来の公共事業を補完し防災・減災機能を備えた持続可能なまちづくりを担うこと、三つ目に国の改正国土形成計画に盛り込まれ、伊勢志摩サミットG7合意でも推進が掲げられたことを挙げている。その具体的実践例として、東京大手町でもすでにグリーンインフラが造られ、憩いの場所が提供されていること、米オレゴン州ポートランド市ではエリオット・アレン氏支援の下、持続可能性評価システムを使い環境にやさしく健康的で住みよいまちづくりを実践し、これらグリーン政策を日本のまちづくりにも推奨している。以下、国内における幾つかの実践例を見ると、  
 ①仙台市と富士通のスマートフードコミュニティー構築:仙台市の農的生活を望むアクティブシニア世代に労働・学びさらにお金、交流を提供し実証実験と紹介サイトを開設し、市民農家が収穫した作物をアプリから注文する仕組みを構築する。マルシェ人気、遊休農地の増加にITを絡めたビジネスの可能性を追求する例がある。今後は、産官学民でプロジェクト化し「自産地消」のムーブメントを起こしたいという。  
 ②長野県川上村のジェンダー平等の実現事業:地方では女性が暮らしにくい社会が形成され、その結果女性が流出、未婚率増加、少子高齢化など課題を抱える。川上村では女性の自己実現のために事業コンセプト「変わることは、希望」を設定し、アイデアコンテスト開催、女性のためのシェアリングエコノミーシステムの提供、スマートアグリ導入等を実施してその事業記録を動画で公開し、ジェンダー視点で文化のスマート化に取り組む。  
 ③新しい茨城づくりに選択と集中(茨城県):第一点「新しい豊かさ」。質の高い雇用を生み出す産業育成を目指し、全国トップレベルの研究施設や本社機能を誘致する最大50億円の補助やベンチャー企業の創設支援、農地の集約化により儲かる農業への転換を促す施策を展開する。二点は「新しい安心安全」、特に医師採用を積極的に推進するために医学部進学者向けに実質金利ゼロの教育ローンの創設、女性医師が安心して働ける保育充実に務める。三点はグローバル時代に対応する新しい人材育成に向けて、就職支援奨学金助成制度と入学一時金貸付制度を設ける。四点目に「新しい夢・希望」として、魅力度ナンバーワンを目指し観光分野を強化、ホテル誘致に最大10億円の補助、東京・銀座のアンテナショップリニューアルなどに取り組む。これらをトータルして売り込むために、大井川知事は営業戦略部を新設し重点事業を選択と集中でスピード感を持って変えていくとしている。  
 ④地域の自立的好循環を目指して:「まち・ひと・しごと創生法」と持続可能な開発指標(SDGs)の多様なメニューを基に自治体をデザインする戦略である。全国1750の自治体が持つ固有の背景、多様な特徴をSDGsに照らし合わせ、自治体の人的資源・自然資源を活用し何ができ何と連携させるかのビジョンを策定すること、地域経済の発展には自治体と企業の連携が必要だし企業においてもビジネスチャンスと捉えられる。地方創生の公民連携もまた重要である。行政・自治体・企業が対等な関係の下に、課題解決のパートナーとして水平的・公民連携のプラットホームを構築し、SDGsの経験と知見の集積・交流の場と考え、地域社会の自立的好循環をもたらせていく。即ち、自治体レベルでの各種プラットホームの設立、NPOや企業が参加することでSDGsをベースにした公民連携の推進と地域活性化が期待されるというのである。


◆企業の地方誘致の現状と今後
 考察してきたように、地方創生の目玉である東京からの企業誘致を巡り、2020年3月末までに計7500件を実現する政府目標の達成が困難な現状である。首都圏への人口の流れが止まらない中で、地方へ移る企業の動きは広がっていない。成功したケースでも新幹線や高速道路で首都圏と直結する地域が目立つなど、交通アクセス整備の状況で明暗が分かれている状況だ。本社機能移転や地方拠点拡充状況を共同通信のアンケート調査にみると、企業サイドでは、本社機能の移転に伴う多額の費用、東京から離れることによって難しくなる情報収集、海外を視野に入れた営業展開には本社東京が有利などと地方移転にメリットを感じていない。一方、地方拠点の拡充では業務拡大に伴う地方支店や事務所の増築、研究開発部門の移転など費用面でハードルが低くなる。しかし現実的に移転先や拡充対象は、県庁所在地の市などインフラが整備された都市部が多く、中山間地域は道路やブロードバンド(高速大容量)回線の整備、ふさわしい土地の確保ができないなど条件が不利となる。  
 こうした現状を受けて政府は、2020~24年度の「第2期まち・ひと・しごと総合戦略」を策定し、企業移転の支援を継続、強化していくとしている。地方からは、そのためには交通網の整備など地方の弱点を克服する対策を含めて政府の本気度に期待する声が大きい。


(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)