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中央テレビ編集 


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自治随想
全国市長会120年の歩みと今後への期待

◆はじめに
 明治22年(1889)市制町村制施行の9年後、全国市長会は前身の関西各市聯合協議会が、明治31年(1898)に24市が参加し創立されてから平成30年(2018)に120周年となる。そして平成30年4月1日現在、791の「市」と23の「東京都特別区」があり、合わせて814の都市がある。全国市長会はすべての都市の市長及び区長によって構成され、各都市の分担金により運営する。私が平成第一号の市長として加わった時には655市であったが、平成12年(2000)地方分権一括法施行以降、東京都特別区、平成の合併による新市の参加などにより694市、私の市長勇退の平成17年762市、平成22年809市、そして今日平成30年814市となる。120周年記念総会に特別参加させてもらった私には感無量の念と、今後への期待感があふれる想いであった。丁度、第29代会長の松浦正人防府市長から第30代会長の立谷秀清相馬市長にバトンタッチが行われ、来賓の安倍晋三内閣総理大臣からの祝辞に「長州から奥州に松明は引き継がれた」、野田聖子総務大臣から「地方創生に向って国・地方ともに歩もう」とのスピーチが心地よく響いたものである。松浦市長とは同い年、市議・県議・市長と同じ経歴をほぼ同年数重ね、立谷相馬市長とは早大マニフェスト研究所で研修をともにし、東日本大震災被災後半月経たない内に相馬市役所に駆け付けた私は、生家を流され被害を受けながらも震災対応の陣頭指揮を執る姿を見て涙が出る想いであった。  

          
   創立120周年記念第88回全国市長会議                         法制化前の国と地方の協議の場
    2018年6月6日 ホテルニューオータニ                              平成16年9月14日  

 全国市長会は、都市間の連絡調整を図り、市政の円滑な運営と進展に資し、地方自治の興隆繁栄に寄与することを目的としており、市民の福祉の向上を図るとともに、より良いまちづくり推進するため、全都市に共通する課題や、単独の市では解決が難しい問題への対応策について調査研究を行い、決議や提言として意見集約をする。それらの集約した意見を発信し、関係者の理解を求めるほか、国会・政府等に対してその実現を働き掛ける。更に、申し入れやアピール等必要に応じて主張を発信し各種活動をする。このため、毎年6月に全国市長会議(総会)を開くほか、定期的に役員会を開催し会の意思決定を行い、特別委員会、協議会、研究会等において調査研究を行い、都市の課題の解決に努めている。  
 全国市長会は平成23年4月に法制化された「国と地方の協議の場」の構成メンバーとして、国と地方の役割分担や地方行政制度等にかかわる政策課題に対し、国と協議し、都市自治体の意見の反映に努める。また、法律上、地方自治に影響を及ぼす法律などに関し、内閣に意見を申し出、または国会に意見書を提出する権利が認められている。更に、地方自治体に新たな事務または負担を義務付ける場合、本会をはじめとする地方6団体が内閣に対して意見を申し出ることができるよう、各大臣が当該施策の内容を知らせるための情報提供制度がある。

◆都市と都市行政
 平成30年4月1日現在の基礎自治体数は、791市・23特別区、774町・183村であり、全国人口と都市人口比を平成29年1月1日現在で見ると、全国人口1億27,90万7086人のうち、都市人口1億16,75万8,406人(91.3%)、町村人口1,114万8,680人(8.7%)であり、全人口の約9割が全国土面積の約58%を占める都市部に住んでいる。  
 都市は人々が集まり、生活が営まれ、ひと・もの・情報が交流する出会いの場であり、「市」及び「区」は、基礎的な自治体として日々の生活に欠かすことのできない住民に最も身近な仕事をしている。上下水道、ごみ処理、環境、福祉、保健、学校教育、生涯学習、道路、公園、都市整備、消防防災、産業振興などのほかに、病院、バス、地下鉄の経営を行っている都市もある。また、地域のイベントの企画や支援、内外の都市との交流など様々な地域活性化を図っている。さらに近年では、市民やNPOなど地域の人々や団体との協働を推進することにより市民サービスの向上にも努めている。


◆全国市長会の組織
 全国市長会の役員は、会長1名(任期2年)、副会長若干名(任期1年)、理事若干名(任期1年)、評議員若干名(任期1年)、支部長9名(北海道・東北・北信越・関東・東海・近畿・中国・四国・九州各支部)、監事3名(任期1年)以上のほか、顧問、相談役及び参与を置くこともできる。
 会務を遂行するために以下の会議を設けている。全国市長会議総会(全市長による議決機関)、理事会(執行機関)、評議委員会(議決機関)、委員会(分野別の政策審議機関で行政・財政・社会文教・経済委員会)、特別委員会(特定の政策課題に関する政策審議機関で国民健康保険対策特別委員会・政策推進委員会・廃棄物処理対策特別委員会・介護保険対策特別委員会、まち・ひと・しごと創生対策特別委員会など)、協議会(特定の性格を有する都市の共通問題に対処する機関で全国港湾都市協議会・防衛施設周辺整備全国協議会・過疎関係都市連絡協議会・水産都市協議会など)、研究会等(特定の分野に関する調査研究機関で、都市財政基盤確立小委員会・教育における地方分権の推進に関する研究会・地方分権推進戦略会議・地方分権改革検討会議・農業政策等を考える小委員会・道州制に関する検討会議・新たなまちづくりを考える研究会など)である。 
 さらに全国市長会は地方6団体の一員として、全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村会、全国町村議会議長会と共同して地方自治確立対策協議会を設けている。また、平成19年に都市分権政策センターを、公益財団法人日本都市センターと共同設置し、真の地方分権改革実現を目指し、都市自治体の政策開発・立案機能の充実に努めている。

◆全国市長会での活動と今後への期待
 私と全国市長会の関わりは平成元年2月3日から4期16年間、平成17年2月まで続く。時の全国会長は第18代会長中村時雄松山市長であり、同じ四国、若い市長に期待しているぞと激励されたことを鮮明に記憶している。19代会長は石井亨仙台市長、20代会長桑原敬一福岡市長、21代会長増山道保宇都宮市長、22代会長栗原勝浜松市長、23代会長赤崎義則鹿児島市長、24代会長高秀秀信横浜市長、25代会長青木久立川市長、26代会長山出保金沢市長、27代会長佐竹敬久秋田市長、28代会長森民夫長岡市長と親交を深めた。評議員や理事として歴代会長と共に研鑽させてもらったが、特に印象に残るのは増山会長・青木会長時代の競輪事業など公営企業の振興対策、高秀会長時に国土交通省港湾局、全国港湾都市協議会並びに全国港湾振興会などと連携した「みなとみらいルネサンス」を、横浜、高松など拠点港湾を中心に計画的に展開したこと、山出会長時代には三位一体改革対策協議会役員として関わり内外に大いに活動したこと、短期間であったが全国水産都市協議会会長、公益財団法人日本都市センター理事、青年市長会理事、政策研究市長会(旧昭和市長会)、白門(中央大出身)市長会設立などに関与し私なりに精進させてもらった。

◆分権型社会への移行と財源不足の恒常化
 平成五年(1993)の衆参両院における地方分権推進決議から七年、同12年4月1日の地方分権一括法の施行によって地方分権史は大きな一歩を刻む。その後、都市の基盤整備、少子高齢化の進行する中、市民生活に密着した対人サービスの充実・向上などが求められるようになり、地域の実情に応じた政策展開が本格化する。これに伴い都市自治体の役割はさらに増大することとなる。一方で取り残された課題である自主税財源の確保をめぐって「三位一体改革」が俎上に上る。平成元年市長就任の私は分権型社会と財源確保の闘いに突入する。 

   
   地方財政危機突破総決起大会                         
   平成16年5月25日 日本武道館                               


 私の現役市長時代は、権限移譲とそれに見合う財源移譲を中央政府から地方政府に移行する第一次地方分権改革がスタートする。続く第二次分権改革ではさらなる権限移譲に加え、法令による規律密度の緩和を目的として「義務付け・枠づけ」が順次撤廃されるなど、その歩みは着実な前進を見せ、地方分権を実現する手法も平成26年(2014)より委員会勧告方式に替えて地方の自主性を重んじる「提案募集方式」へと進化してきている。  そうした中で起こったのが平成20年(2008)の「リーマン・ショック」だった。世界経済の混乱はわが国にも波及して経済は低迷し、都市財政にも再び深刻な影響を与える。一方、市町村合併の進展で都市自治体に暮らす人々は飛躍的に増え、市長会の役割はさらに大きなものとなる。社会保障政策の充実や頻発する大規模自然災害への対応等に追われる中、人口減少・少子高齢化社会への懸念が高まって地方創生に向けた取り組みの強化が求められるようになったのである。  
 第30代立谷秀清全国市長会会長の就任挨拶は、「地方政府の確立を目指す」であった。あの悲惨極まる東日本大震災・津波・原発事故の只中にあって陣頭指揮を執る相馬市長室での姿を、感動をもって当時直視した私は「彼ならできる」と躊躇なく期待する者である。

(西川政善、徳島文理大学総合政策学部(兼総合政策学研究科)教授)